大義だったはずの核問題を棚上げしたまま、トランプ米大統領がイランとの戦闘終結に向けた覚書に署名した。和平実現へ期待すべき進展だが、そもそも何のための武力行使だったのか、疑念が拭えない
▼トランプ氏は、戦闘の長期化と原油高が11月の中間選挙で不利に働くと考えたとみられる。子どもを含め3千人を超す犠牲を出しておきながら、結局は損か得かで判断したように見える。はじめから「義」ではなく「利」を求めた攻撃ではなかったか
▼武将たちが領土拡大に明け暮れた戦国時代、私利私欲で戦をせず、義の心で動いた人がいる。上杉謙信だ。敵に塩を送った故事で知られ、その精神は上越市の林泉寺で培ったとされる。7歳から14歳まで日々座禅を組み、修行を積んだという
▼寺の宝物館に謙信直筆の「第一義」の大額が展示されている。中国の仏教書「碧(へき)巌録(がんろく)」にある悟りの根本を意味する言葉で、勢いのある筆致からその思いが伝わってくる
▼謙信の教えを広めようと10年前、上越市民の有志が「義の心の会」を発足させた。メンバーが毎年、地元の小中学校で講演会を開くほか、林泉寺での座禅体験が人気だという。しかし石田明義会長は「義ではなく利を優先させる風潮を変えたいと会をつくったが、世界は発足当時より悪くなっている」と眉をひそめる
▼「宝在心」と呼ばれる16カ条からなる謙信の家訓がある。その一つが「心に欲なき時は義理を行う」。今の為政者たちに言葉の意味をかみしめてもらいたい。
