【2021/06/24】

 一度使うと抜け出せないイメージがある覚醒剤、大麻などの違法薬物。しかし、生きづらさなどから薬に頼った末に、依存の闇から脱却しようと、もがく人がいる。処方薬や市販薬の大量服用の問題もあり、誰もが薬物と無縁とは言い切れない。生活面重点企画「依存症を考える」第4部は、薬物依存に焦点を当てる。

 何度も見る夢がある。自分の腕に注射針を刺す。針を通して逆流した血が、覚醒剤を入れた注射器の中でクモの巣のように広がる。その液体を自分の体に注入すると、全身がかっと熱くなり汗が噴き出す。そこではっと目が覚める。

 県内の40代会社員、小林洋紀さん=仮名=は、覚醒剤を断ってから5年以上がたつ。今でもテレビの警察特番で薬物使用者の様子を目にすると、夢で見たような快感を思い出す。

 他の人には何でもない新型コロナウイルスのワクチン接種の映像が出たときもだ。注射器を見ると薬物をやりたい気持ちが湧きそうになり、身構える。

 そんな時は、結婚を前提に付き合う彼女の笑顔を思い浮かべる。「彼女を裏切りたくない」。薬物におぼれた過去の自分を受け入れてくれた。「信じてくれる人たちの存在が薬物の誘惑と闘う力になる」

■    ■

 高校は進学校に通ったが「周りについて行けず落ちこぼれた」。その頃から不良仲間と付き合うようになった。20代の頃、先輩に誘われ、アルバイト先の休憩室で初めて大麻を試した。

 「周りもやっていて罪悪感はなかった」。仲間で回して吸った。「理由もないのにハッピーな気持ち」。鉛筆が机から転がり落ちるのを見るだけで笑えた。

 次第により強い刺激が欲しくなり、先輩から出されたのが覚醒剤だった。「あぶりは効きにくいから大丈夫。1回だけ」と自分に言い聞かせ、試した。

 効果は大麻と全く違った。一度使うと3日は寝なくても食べなくても平気。性的快感も増し、癖になった。1袋3~4回分で1万5千円。バイトで金をためて先輩から買い続けた。

 ある日、職務質問を受けたことをきっかけに逮捕された。留置場に来た父が「何やってんだ」と悲しげに怒るのを見て初めて薬に手を出したのを後悔した。

 執行猶予判決を受け、「やり直そう」と決意したが、逮捕されたことが広まり、薬物関係者がますます近寄ってくるようになった。繁華街を歩くと耳元で「あるよ」とささやかれた。

 離れていった友人もいた。「どうせ失う物は何もない」と、判決から半年ほどで再び覚醒剤に手を出した。あぶりから注射器に切り替えると「自分でもやばいと思うほどはまった」。

 覚醒剤は効果が切れるまでに4日ほどかかる。周囲に気付かれないように使うために、定職に就かず単発の仕事で金を稼ぎ薬を買った。体は痩せ、変な汗をかく。ぎょろついた自分の目を見るのが嫌で鏡を避けるようになった。

 「最後にしよう」と思ってもやめられない。逮捕、服役を繰り返しても欲求は抑えられなかった。「誰でもいいからこの地獄から出してくれ」。薬物の作用で誰かに監視されているように感じ、警察に助けを求めて自首したこともあった。

■    ■

 小林さんを変えたのは最後に逮捕された時に付いた国選弁護人だった。接見回数も多く、留置場にお菓子やパジャマを差し入れてくれた。理由を尋ねると「本気で立ち直ろうと思っている人でなければここまでしない」と返ってきた。「こんな自分でも信じてくれる人がいた」。心が動いた。

 出所後は、覚醒剤を使う時間を自分に与えないようにするためフルタイムの仕事に就き、自助グループに通い始めた。定職に就いたことで、協力して仕事をこなす面白さに気付いた。「周りの人たちを裏切りたくない気持ちが薬の最大の抑止力になっている」

 自室の壁には「自分を変える」と書いた紙を張り、毎日眺める。薬物依存は完治しない病気だが、人生は終わったわけではない。「やめ続けたら、自分も幸せをつかめる」。そう信じている。

◆違法薬物経験、身近な人にも
本社アンケート

 新潟日報社は、同社のメールマガジン登録者らを対象に薬物依存についてアンケートを行った。5月21日~6月5日に63人が回答した。

 本人が薬物依存の経験があると答えたのは11人(17%)。薬物の内訳(複数回答)は、睡眠薬・抗不安薬などの処方薬と、せき止めなどの市販薬が各5人。違法薬物の回答はなかった。

 家族や友人ら知り合いに依存経験があると答えたのは14人(22%)。薬物別(複数回答)では処方薬が最多の8人で、市販薬5人、覚醒剤4人、大麻2人、危険ドラッグ1人など。

 違法薬物の依存者を減らすために、より力を入れるべき対応を聞くと、「使用者を医療機関や自助グループなど社会での回復支援につなげる」が43人(68%)で、「取り締まりを強化して厳しく罰する」の12人(19%)を上回った。

 回答者の性別は女性34人、男性29人。年代別では50代が最多の21人で、40代16人、60代10人、30代7人、70代以上5人、10~20代4人だった。