小学2年生の時からピアノを続けている相澤夏音さん。被爆ピアノの演奏会に向け、長岡市の実家でも練習に励む=新保6
小学2年生の時からピアノを続けている相澤夏音さん。被爆ピアノの演奏会に向け、長岡市の実家でも練習に励む=新保6

 広島市に原爆が投下された際に焼失を免れた「被爆ピアノ」の演奏会と映画の上映会が25日、新潟県長岡市で開かれる。演奏者の一人、新潟大学教育学部1年の相澤夏音(なお)さん(19)=新潟市東区=は4年前、初めて被爆ピアノを弾き、音色に感動し、平和についてより考えるようになった。小学校の教師になる夢も膨らんだ。2度目となる今回、祈りや感謝の思いを込め、ステージに上がる。

 「弾く人によって音色が全然違う。ピアノが演奏者の気持ちを拾ってくれるんだと思う」。長岡市出身の相澤さんは中学3年だった2017年、市内であった演奏会に出演し、初めて被爆ピアノを弾いた。

 被爆ピアノは、爆心から半径3キロ以内で被害を受けたピアノのことを指す。傷やゆがみで正確な音程を出せないが、「人の心を動かす音色」だと思った。

 中学2年の時、修学旅行で広島市を訪れ、被爆者の話や資料館で原爆や戦争の恐ろしさを肌で感じていた。被爆ピアノと出合い、演奏したことで、平和について深く考えるようになった。子どもたちに平和の大切さを伝えたいと、教師になる夢も固まっていった。

 17年の演奏会では、映画「おかあさんの被爆ピアノ」の制作を構想していた長岡市出身の映画監督五藤利弘さん(52)と、自身も被爆2世で被爆ピアノを修理してきた調律師の矢川光則さん(69)=広島市=と知り合った。今回の演奏会も五藤さんからの誘いがあり、参加を決めた。

 今回の演奏では、昨年夏に公開された五藤さんの映画への感謝の思いも込める。矢川さんがモデルの調律師と交流する保育士を志す被爆3世のヒロインが、教師を目指す自らとが重なった。受験勉強を頑張る原動力になった。

 忘れられないシーンがある。被爆ピアノの演奏会に挑んだヒロインが、曲の途中でうまく弾けず、止めてしまう。それでも、母の手を借りて、演奏を終える。

 かつて長岡で矢川さんが語った言葉を思い出した。「うまいとか、下手とかは関係ない。大切なのは、平和への思いです」

 今回、その劇中の曲を弾く。ベートーベンのピアノソナタ第8番「悲愴」の第2楽章。ゆったりと優しく包み込むような曲調で、「祈りや感謝の気持ちを表現できる」と思ったからだ。

 被爆ピアノや映画から力をもらった相澤さんは、今度は伝える側に回る。「聞く人の心に、新たな変化を与えられたらうれしい」とけん盤に向き合う。

◆25日、長岡リリックホール。映画も上映

 演奏会は長岡リリックホールで25日の午前10時と午後3時開演。合わせて9人が被爆ピアノを弾く。演奏後、映画「おかあさんの被爆ピアノ」を上映する。前売り2千円、当日300円増し。障害者や高校生以下などは当日千円を返金する。問い合わせは「長岡アジア映画祭実行委員会!」の菅野さん、090(4520)4222。