人の観念を表現

 新潟には何度か来ているけれど、人が気さくでいいところ。10年ほど前に入ったおすし屋さんが今回、僕を覚えていてくれた。3月は天候が不安定でロケをするにはスリリングだけど、僕のシーンは天気に恵まれてラッキーだった。

「(敬三は)主人公の高宮利一を、昔の自分みたいに思っているのではないか」と語る長塚京三さん

 この映画は、かなり渋い家族の話。「家族の再生」といっても、昔の幸せを取り戻そう、というような紋切り型ではない。

 相手を許して、その代わり自分も許してもらう。そうしてお互い、上手に諦め合っていく家族の物語だと思う。ある意味ハードボイルドだけれど、そこには血のつながった人間同士の慈愛がある。そういう点では、今の家族というものをうまく捉えていると思う。

 おじいさん(山辺敬三)は、必ずしも物語の中心人物ではない。ただ、一人娘は離婚して、妻も亡くして、家族がなんとなくバラバラになっている中で、自分も体調を崩してしまった。そういう人の観念の仕方を表現したいと思った。

 人はみんな独りで死に向かっていかなければならない。自分の意思にかかわらず生きている期間、というのは非常に怖い。ただ生きているだけでいいのかどうか-。誰しも身につまされるところだから面白いよね。そこでこの人は、残り少ない時間を自分と家族のためによく生きようと決意するんだ。自分がしっかりしている間に、家族がお互いに許し合い、上手に諦め合えるように。

 それで最後にみんなで佐渡旅行に行く。帰りのフェリーの上で、おじいさんがどんな顔をしているかを見てもらいたい。

 おじいさんがどう生きてきて、何を悩んでいるかなんて若い人は想像しないだろうけど、おじいさんの方ではいろいろ考えているものなんだよ。普通は、祖父なんてその役割を発揮する機会がないまま終わってしまうものなんだろうけど、敬三の場合は最後にそれをフルに務めることができた。幸運な人だよね。親孝行っていうのはたぶん、そういうものなんだよ。

<ながつか・きょうぞう> 1945年生まれ、東京都出身。フランス遊学中に映画「パリの中国人」に出演。75年帰国し、俳優デビュー。映画「ザ・中学教師」「瀬戸内ムーンライト・セレナーデ」、NHK大河ドラマ「篤姫」「花燃ゆ」、ドラマ「沈まぬ太陽」「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」など。

新潟日報 2017/05/19