紙芝居を通じて1945年8月1日の長岡空襲を伝える新潟県長岡市の取り組みが、本格化している。2019年に行った演者養成講座から長岡戦災資料館の運営ボランティアが生まれ、この夏、受講者が初めて小学校に出向いて上演した。空襲体験者の高齢化で生の証言を聞く機会が貴重になる中、次の世代に伝える手段として、技能次第で誰もが語り部になれる紙芝居が注目されている。
市は18年、空襲で1歳の娘を亡くした女性の実体験を基にした紙芝居「みちこのいのち」を制作した。市内の全小学校などに配ったが、いかに活用するのかが課題だった。
そこで19年に演者養成講座を実施。市民8人が5回の連続講座を受け、演じ方や表現を学んだ。8人は、既にボランティアや資料館職員だった計2人を除き、6人が受講を機に、戦災資料館の運営や企画に携わるボランティアに登録した。
ただ、新型コロナウイルス禍で、対外的な発表の場が限られる状況が続いた。市がことし7月、「フォローアップ講座」を開き、技能を保とうと努めていたところ、新町小(長岡市西新町2)から上演の打診があり、演者を派遣することにした。受講者がボランティアとして外部に派遣される初めてのケースとなった。
上演は8月31日にあり、田口孝さん(64)が6年生約60人の前で披露した。火の海を必死に逃げる親子を熱演。命が尽きかける娘に乳を飲ませ、「死なないで」と叫ぶ母の悲痛な心情を表現した。児童たちは真っ赤に染まった街の絵に見入っていた。
新聞記事や体験者の証言動画で空襲を学んできた児童からは、「臨場感がすごくて話に引き込まれた」「心を動かされた」との感想が聞かれた。田口さんは祖母が空襲に遭ったことや、父は海軍の予科練だったことを明かし、「自分には空襲とつながりがある。2人の代わりに伝えていきたい」と語った。
市は、今後も市内の小学校や平和関連行事などで紙芝居を披露する方針だ。市庶務課は「伝承活動の一つの柱として見通しが立った。ボランティアには上演の場を重ねていく中で、さらに力をつけていってほしい」と期待している。