今年は原発再稼働へ向け、国から立地地域への働きかけが強まることは間違いない。東京電力柏崎刈羽原発を巡る動きが例年以上に注目される。

 国や県、自治体、関係者らは、大切なのは立地地域や県民の合意と納得だということを忘れないでもらいたい。

 「見切り発車」は許されない。再稼働ありきではなく、安全性と必要性の議論を徹底的に尽くすべきだ。

 政府は昨年12月、脱炭素に向けて経済社会の変革を促すGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、原発政策の大転換を決めた。

 2011年の東電福島第1原発事故以来掲げてきた「原発の依存度低減」の従来方針を「原発の最大限活用」に変え、GX実現の基本方針に明記した。

 方針には、柏崎刈羽原発6、7号機を含む原子力規制委員会の規制基準の審査に合格した原発7基について、夏以降の再稼働を目指すことが示された。

 ◆再稼働へ強まる圧力

 柏崎刈羽原発は現在、テロ対策上の重大な不備が相次いで発覚したため、規制委が是正措置命令を出し、再稼働できる状態にはない。

 規制委は3月までに検査結果をまとめ、命令を解除するか判断する見通しだ。

 岸田文雄首相は昨年夏、「再稼働に向け、国が前面に立って、あらゆる対応を取る」と述べていた。命令が解除されれば、再稼働への「圧力」が強まることは確実だ。

 忘れてはならないのは、甚大な被害をもたらした福島原発事故だ。その教訓をいつまでも胸に刻んでおかねばならない。

 それなのに福島事故以来の原発政策の大転換を、政府が国会での熟議もなく決めたことには大いに疑問が残る。

 新たな方針では、原発の運転期間について「原則40年、最長60年」としてきた上限を撤廃、「60年超」の運転を認めた。

 これにより、運転開始から40年近い柏崎刈羽原発1号機など、規制委の審査に合格していない「未合格原発」が延命される見通しになった。

 規制委は運転開始30年後からは、10年以内ごとに設備の劣化状況を繰り返し確認するとしているが、老朽化原発の経年劣化など安全性への不安は強い。

 制度見直しを巡り、規制委の事務局である原子力規制庁と経済産業省が事前にやり取りしていたことも明らかになった。「規制と推進の分離」の形骸化が懸念される。

 ◆県検証の議論深めよ

 もう一つ注目していかねばならないのは、原発の安全性を巡る県独自の検証だ。

 検証は「福島事故の原因」と「福島事故が住民の健康と生活に及ぼした影響」「事故時の安全な避難方法」の三つを指す。

 来月にもすべての報告書が出そろう見通しだ。検証は大詰めを迎えている。

 花角英世知事は三つの検証を待って再稼働の議論を始める考えだ。「結論を示しそれを受け入れてもらえるか県民の意思を確認する」としており、何らかの方法で県民に信を問う構えを崩していない。

 知事は、政府の方針にかかわらず、その姿勢を維持し県民との約束を守ってもらいたい。

 気になるのは、運営方法や議題を巡り、三つの検証を総括する検証総括委員会の池内了(さとる)委員長と事務局の県の考えが折り合わないことだ。

 このため、総括委が約2年間、開かれていない。

 池内氏と県の考えは、県民の意見を聞く会をどのように設けるかや、柏崎刈羽原発の安全性を議題にするか、不祥事が絶えない東電が原発を運転する「適格性」を評価するかといった点で食い違う。

 そもそも総括委の任務についての見方が異なっている。

 池内氏の委員長任期は3月末に迫り、他の委員からは「このまま時間切れのようになれば最悪だ。県民のためにならない」といった声も出ている。

 先月の大雪では、原発の重大事故に備えた県の広域避難計画で、主な避難道路として想定されている柏崎市の国道8号で立ち往生が発生し、解消まで38時間もかかった。

 原発事故に自然災害が重なれば、避難が極めて困難になることは論を待たない。

 県民にとって何が大切なのかを熟慮した上で、議論を深めてもらいたい。