きのうの小欄は新型ウイルスとインフルエンザの同時流行の懸念を、雪と暴風が同時に襲来する吹雪になぞらえた。この冬、流行拡大が鮮明な感染症がある。高病原性鳥インフルエンザだ

▼昨年秋に始まった今シーズン、野鳥を除く国内発生事例数は過去最多を更新した。県内でも村上市や阿賀町で発生が確認された。このうち、村上市の養鶏場は県内最多の約130万羽を飼育していた。全て殺処分される。県内の全採卵鶏の2割に当たる数だ

▼考え得る対策はしているのに、これ以上何をすれば…。業者からは悲鳴が上がる。心労は察するに余りある。人が鶏肉や鶏卵を食べて感染することはないという。ただ、殺処分の増加は鶏卵の値上がりを招いており、家計にとっても痛い

▼香川県では国の特別天然記念物コウノトリの感染が確認された。野生の個体が絶滅した後、人工繁殖で復活した種である。同じような道筋をたどり、今は佐渡の空を舞うトキも心配になる

▼つくづく感染症は人の営みを翻弄(ほんろう)する存在だと痛感させられる。「翻」という字は「ひらひらする」「ひるがえる」といった意味を持つ。吹雪のように荒れ狂う感染症に吹き飛ばされそうな人間の姿が脳裏に浮かぶ

▼人類の歴史は感染症との闘いの歴史でもあったという。多くの人が命を落としてきたが、私たちは感染症禍を生き延びた人類の末裔(まつえい)であるともいえる。吹雪が落ち着けば分厚い雲の間から日の光が差すのが常だ。春を待つ気持ちで、そんな日の訪れを願う。

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