新潟のうまい酒と肴(さかな)を求めてふら~り、ふらり。酒席で人生の多くを学んだ新潟日報社の森沢真理・特別論説編集委員が、酒や肴、酒にまつわる出会いをつづるコラムです。にゃんこの「おかみ」もご一緒に!
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「20年ぶりに屋外ステージで公演をやるので、見に来ませんか」。越後・塩沢(新潟県南魚沼市)に江戸時代から伝わる地芝居を受け継ぐ住民グループ「塩沢歌舞伎保存会」から、こんな誘いをいただいた。春を前に演じる「雪中の戯場(しばい)」は、塩沢に生まれた江戸時代の文人、鈴木牧之(すずき・ぼくし)が出版した「北越雪譜(ほくえつせっぷ)」に登場する。塩沢には、北越雪譜に出て来る親切な妖怪「異獣(いじゅう)」をモチーフにしたお酒「雪男」(青木酒造)もある。雪中歌舞伎と地酒の一夜を堪能するため、2月18日に南魚沼市塩沢で開かれた「雪譜まつり」に参加した。
雁木(がんぎ)が連なる牧之通りには、歌舞伎興行ののぼりが並んでいた。雪譜まつりで歌舞伎が上演されるのは、3年ぶり。
会場の鈴木牧之記念館周辺は、露店でにぎやかだ。地酒や生姜(しょうが)みその焼きもちなどを無料で振る舞うテントもある。
屋外での立ち見公演ということで、モコモコと着込んできたが、思ったより雪は少ない。2部構成で、昼は子ども歌舞伎の「白浪五人男(しらなみごにんおとこ)」。夜が北越雪譜を題材にしたオリジナル作品「関山村毛塚縁起(せきやまむらけづかえんぎ)〜雪中の幽霊〜」という演目だ。

子ども歌舞伎「白浪五人男」の一場面。華やかな紫の衣装にそろいの番傘で並んだ盗賊が、名乗りを上げる=2月18日、南魚沼市塩沢
「毛塚縁起」の脚本を書いたのは黒衣(くろこ)姿の保存会会長、太田喜一郎さん(74)。「雪や川の音を太鼓で表現しています」と解説してくれた。
白浪五人男は「稲瀬川勢揃(せいぞろ)いの場」。日本駄右衛門(にっぽんだえもん)や弁天小僧菊之助ら、5人の盗賊の名乗りが見せ場だ。「問われて名乗るもおこがましいが…」。小中学生の役者たちが堂々と見得(みえ)を切り、会場は大いに沸いた。
石打地区が舞台の「毛塚縁起」の上演は、日が落ちてから。雪で造った花道をろうそくの炎が照らす。冒頭に登場する村人は大きなかんじきを履き、北越雪譜の世界から出てきたよう。
魚野川の五十嵐橋のたもとに幽霊のお菊が現れ、僧の源教に、切々と頼みごとをする。現世に未練を残す「この黒髪」を切り落とし「迷わず成仏させてたべ(成仏させてほしい)」

北越雪譜を題材にしたオリジナル歌舞伎「関山村毛塚縁起」。お菊の願いをかなえた後、塩沢の地酒を酌み交わす=2月18日、南魚沼市塩沢
源教はかみそりで髪を落とし、お菊は「(あの世にいる)夫と子と両親に会える」と喜ぶ。雪の花道を歩いてゆくラストシーンは、幻想的で美しい。
源教と、お菊とのやりとりを見届けるために隠れていた七兵衛は、ホッとした風情で塩沢の地酒を酌み交わす。「わしは鶴齢を先にいただこう」「それでは私は高千代を」
ご当地らしいせりふに温かな笑いが起きる。客席との一体感は、地芝居ならではだろう。ならわしに従って、私も友人と一緒に少しだけ、花をつける(ご祝儀の意)ことにした。さすがに夜は冷える。熱燗(あつかん)といきますか。

「関山村毛塚縁起」の最後の場面。幽霊のお菊が雪の花道を歩き、家族の待つあの世へと向かう=2月18日、南魚沼市塩沢
◆北越雪譜と深い関わり
青木酒造の「雪男」はコラボ名人!?
「雪男」は銘酒鶴齢(かくれい)で知られる青木酒造が展開するブランドだ。創業は1717(享保2)年。鈴木牧之の次男が江戸後期、青木酒造の前身である平野屋を継いでおり、北越雪譜との関わりは深い。
毛むくじゃらな雪男のデザインは、北越雪譜に出て来る「異獣」がモデルだ。人間から焼きおにぎりをもらう代わりに、荷物を担いでくれたとのエピソードがある。
「鶴齢は淡麗旨口ですが、雪男は淡麗辛口で、すっきりした味わい。妖怪なので、遊び心のある企画をしやすいですね」。青木酒造の専務取締役の阿部勉さん(48)は言う。

牧之通りにある青木酒造の店舗に並ぶ「雪男」関連商品=南魚沼市塩沢
雪男関連の商品は、多岐にわたる。焼酎やおちょこ、大手菓子メーカーのロッテと組んだチョコレートまである。異獣なだけに、異世界とのコラボが得意なのかもしれない。
牧之通りにある店舗で説明をしてくれた青木酒造の青木治子さん(73)によると、雪男で一番人気があるのは純米酒(720ミリリットル、1551円)。カップ酒は、雪男にスキーやスノーボードをあしらったイラストがかわいい。「肴は、揚げ物が合うと思います。串揚げなんかいいのでは」
◆[ほろ酔いレシピ]純米酒のアテもコメだ!
「けんさん焼き」と「きりざい」の郷土料理コンビ
「雪男」純米酒には、何を合わせよう。串揚げに心引かれたが、まずは南魚沼市の郷土料理を作ってみることにする。
雪男といえば、おにぎりは欠かせない。魚沼をはじめ越後各地で食べられている「けんさん焼き」にしよう。みそに砂糖、すった生姜を混ぜて作った生姜みそをおにぎりに塗って焼く。みそは焦げやすいので、ご用心。香ばしく、お茶漬けにしてもうまそうだ。
もう1品は「きりざい」。納豆に野沢菜などを刻んで混ぜる。栄養を考えて、ゆでたニンジンを加え、しょうゆを少し。彩りに筋子を添えてみた。素朴で懐かしい味わいだ。

郷土料理に挑戦した。左がけんさん焼き。右がきりざいと筋子
「毛塚縁起」の飲酒シーンでは、地酒に合う肴として、きりざいと地元大津商店の「牧之まんじゅう」(1個97円)を挙げていた。まんじゅうは、ほのかにみその香りがする。キリッとした「雪男」を、甘辛両方の肴で楽しみました。
◆[買い物・見学info]
◎鈴木牧之記念館 南魚沼市塩沢1112の2 午前9時〜午後4時半 入場料小中高生250円、一般500円ほか 休館火曜 詳しくは電話025(782)9860

宿場町の雰囲気が漂う牧之通り
◎青木酒造 南魚沼市塩沢1214 午前10時〜午後4時 定休水曜 電話025(782)0023
◎大津商店 南魚沼市塩沢1450 定休火曜 営業時間平日午前8時半〜午後6時半、休祝日午前9時〜午後6時 電話025(782)0062
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「還暦記者の新潟ほろ酔いコラム」(略称・新潟かんほろ)は原則第2、第4金曜にアップ。次回は「新潟にも『角打ち』の波」の予定です。
◎noteでも連載 投稿サイトnoteでも、同名タイトルのスピンオフ連載を掲載中。13回目は「多和田葉子『地球-』3部作と新潟・塩沢の雪中歌舞伎」
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