新潟のうまい酒と肴(さかな)を求めてふら~り、ふらり。酒席で人生の多くを学んだ新潟日報社の森沢真理・特別論説編集委員が、酒や肴、酒にまつわる出会いをつづるコラムです。にゃんこの「おかみ」もご一緒に!
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新潟県柏崎市の大地主だった石黒家が明治時代初期に建てた屋敷で、和のコースをいただく古民家料理店「味楽庵(みらくあん)」。主人の石黒美和子さん(69)が、地物の野菜や山菜などを使った家庭料理を提供する。お客は昼夜各1組限定で、この時季は「味楽庵」脇の竹林で採れたタケノコが味わえる。
2022年、88歳で亡くなった美和子さんの母、寿美さんは戦前に衆議院議員を出した旧家を守り、新潟ゆかりの文化人を顕彰する活動にも尽力した。「タケノコの時季に、遊びにいらしてね」という寿美さんの言葉を思い出し、5月連休のお昼にお邪魔した。

古民家料理店「味楽庵」主人の石黒美和子さん。竹林でタケノコを収穫するのも大事な仕事=柏崎市矢田
高速バス路線のバス停「曽地」(柏崎市)から、車で5分。エプロン姿の美和子さんが迎えてくれた。「タケノコを狙ってイノシシが来るの。先日は体重80キロの雌がわなに掛かって、猟友会の人を呼んだんですよ」
タケノコの収穫は多い年で2000本ほど。今年は出方が少ない「裏」の年だが、700本は採れたそうだ。毎朝、林を見て回り、手作業で掘り出す。「4月から5月後半まで、毎日がタケノコとの闘いです」

竹林にはタケノコを食べに来るイノシシ用のわなが仕掛けられていた
案内してもらった屋敷は天井が高く、歴史ものドラマの舞台になりそう。2007年の中越沖地震では大きな被害を受けたが、「文化財級の建物を守りたい」という地元の声もあり、修復して再開にこぎ着けた。
料理が運ばれてきた。新鮮なタケノコは、ほのかな香りがして柔らかい。これを身欠きニシンや大根の「干しかぶ」などとじっくり煮た料理は、下ごしらえから3日掛かったという。まさに、スローフードだ。
タケノコご飯は、甘めのいり卵を乗せていただくのが石黒家流とか。地物のホワイトアスパラガス、和牛のすじや山菜の入ったスープ…。どれも丁寧に作られ、優しい味だ。
「デザートのプリンはママちゃん(寿美さん)の担当だったけど、いなくなっちゃったから封印なの」と美和子さん。

柏崎市矢田の「味楽庵」の外観。和の風情を感じさせる
寿美さんは、戦前の衆院議員で、明治期に高田(現上越市)で設立された旧百三十九国立銀行の頭取を務めた石黒大次郎の五男と結婚した。早くに夫を亡くし、家を切り盛りしてきた。腰椎の病気で通院していたが、つえをついてどこにでも出掛けるパワフルな人だった。
文学を愛し、新聞を読むのが大好き。日本文学研究者のドナルド・キーンさんを顕彰するドナルド・キーン・センター柏崎や、新潟市の會津八一記念館などで、よくお目に掛かった。当方の署名記事が新潟日報の紙面に載ると「読みましたよ!」と弾むような声で電話をいただいた。

仏壇の前には、柏崎市のドナルド・キーン・センター柏崎の関係者と撮影した写真が飾られていた。中央がキーンさんで、左から2人目が石黒寿美さん=柏崎市の味楽庵
ボランティアにも積極的で、医学の発展のために献体をする「新潟白菊会」の活動に参加していた。子宮がんで亡くなったのは、2022年4月。遺体は新潟大学に運ばれた。「病院には大変お世話になったから、最後のご奉公をしたい」という寿美さんの遺言を、家族が守ったのだった。
私も寿美さんが伝えてきた旧家の味、堪能しました。「ご奉公」が終わって柏崎に戻られたら、お参りに来ますね。

味楽庵の室内。地物の山菜や野菜を中心に、体に優しい手料理が並ぶ=柏崎市矢田
◆邪魔をせず、しっかり主張のイキな酒
柿崎の吟田川(代々菊醸造)を合わせる
タケノコ料理には、どんなお酒が合うのだろう。石黒美和子さんが勧めてくれたのは、上越市柿崎区にある代々菊醸造の「吟田川(ちびたがわ) 吟醸 ひやおろし」(720ミリリットル、1650円)。新潟の風土が生み、大吟醸酒に使われる酒米、越淡麗(こしたんれい)を使ってある。「料理の邪魔をしないけれど、しっかり味の自己主張もある。いいお酒です」
代々菊醸造がある柿崎は頸城杜氏(くびきとうじ)の里として知られる。「ちびたがわ」という珍しい名称は、酒に使う水がわき出す地の名前。
少量生産、地元密着型の酒蔵だ。手作業が多く、もろみを搾(しぼ)る作業は「槽(ふね)搾り)」という昔ながらの方法を取る。

代々菊醸造の「吟田川(ちびたがわ) 吟醸 ひやおろし」。味楽庵の室内に似合うお酒だ
代表取締役社長の中澤房尚(ふさなお)さん(68)によると、吟醸ひやおろしは「柔らかな辛さ」が特徴という。酒の肴には、魚を合わせるのが好きだそうだ。「タイの刺し身やアジ、佐渡のブリ。焼き魚もいいですよ」
ひやおろしは夏が終わってから出る酒なので、いまの時季に購入するなら、「吟田川 吟醸」がお薦め。値段は同じという。
◆[ほろ酔いレシピ]山の恵みのおすそわけ
山ウドを肉巻きソテーに
「味楽庵」の石黒美和子さんから、お土産にタケノコや山菜をいただいた。その一つ、山ウドは近所の人が採ってきてくれたものだ。
山ウドは皮や葉も含め、全部食べられるところがいい。ビタミンBたっぷりの豚肉で、「山ウドの肉巻きソテー」を作ろう。味付けは時短の秘密兵器、焼き肉のたれを使う。
まず下ごしらえ。茎を熱湯でさっとゆで、冷水に取る。皮をむいたら、用意していた酢水に入れる。茎と皮は別々にしておく。葉もさっとゆで、同じようにする。ここまでは日中、家にいる家族にやってもらった。ありがとう。
さて調理だ。茎を薄切りの豚肉でクルクルと巻き、さっと小麦粉を振る。オリーブ油を熱し、肉の継ぎ目部分を下にして焼く。肉の色が変わったら、たれで味付けをする。塩、コショウにレモンでもよさそうだ。

山ウドの豚肉巻きソテー
肉巻きは十分主菜になる。山ウドは食感と風味がいい。冷えたビールが合うかな。皮はきんぴら、葉は新じゃがとお吸い物にした。
焼き肉のたれは、きんぴらや肉じゃがの味付けにも使える。甘めなので、酒やしょうゆで調整を。
◆[訪問・買い物info]
◎味楽庵 新潟県柏崎市大字矢田877番地 昼は3000円〜、夜は5000円〜(いずれも飲み物は別) 電話0257(28)2116 予約制なので希望日を問い合わせる
◎代々菊醸造 新潟県上越市柿崎区角取597 電話025(536)2469
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「還暦記者の新潟ほろ酔いコラム」(略称・新潟かんほろ)は原則第2、第4金曜にアップ。次回は「胎内高原ワイナリーに吹く風」、6月2日に公開予定です。
◎noteでも連載 投稿サイトnoteでも、同名タイトルのスピンオフ連載を掲載中。18回目は「コレクターのまち柏崎 屋敷妙子さんの絵と『さまよい安寿』」
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▽「さけ」は「酒」だけにあらず!
新潟で働きたい若者を応援する、「酒」ならぬ「にいがた鮭プロジェクト」はこちらから。
◆6月9日にオフ会開催!「新潟かんほろ」ナイト
ビールの肴にトークと生演奏を
6月9日(金)午後6時〜8時15分、新潟市中央区沼垂東2の沼垂ビアパブで、初の読者交流会(オフ会)「新潟かんほろ」ナイトを開きます。ビールを味わいながら、トークと生演奏を楽しむイベントです。
トークは午後6時20分から。新潟市出身の戦没画家金子孝信と、クラフトビールの沼垂ビールを巡る物語がテーマです。孝信は「新潟かんほろ」の第2夜、第3夜に登場しました。
定員30人。入場無料ですが、飲み物の注文は必要。6月6日までに申し込みをお願いします。メールはh-nishikawa@niigata-nippo.co.jp
詳しい内容はこちらのチラシで。