新潟のうまい酒と肴(さかな)を求めてふら~り、ふらり。酒席で人生の多くを学んだ新潟日報社の森沢真理・特別論説編集委員が、酒や肴、酒にまつわる出会いをつづるコラムです。にゃんこの「おかみ」もご一緒に!
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「そらとなでしこ」。日本の女性を意味する「やまとなでしこ」と「空」を掛けた純米大吟醸酒だ。「日本酒王国」新潟県にある3社、日本航空(JAL)新潟支店(新潟市中央区)と酒類卸の新潟酒販(新潟市西区)、弥彦酒造(弥彦村)の女性社員が共同で開発した。酒造りの現場は、男性が担ってきた部分が多い。原料米の田植えに始まり稲刈り、酒の仕込みまで、各工程で女性が主導しての酒造りは珍しいとか。シスターフッド(女性たちの連帯)から生まれた酒は、どんな味わいなのだろう。
近年、日本酒の国内消費量は減少傾向にある。今回のプロジェクトは、日本酒になじみがなかった層にも魅力をPRし、地域経済の活性化を図るのが狙いだ。

弥彦村の田んぼで酒米の稲刈りを行う日本航空の女性社員ら=2022年10月、新潟酒販提供
「香りがよく、誰でも飲みやすい。栃尾(新潟県長岡市)の油揚げ、のっぺといった新潟の食べ物にもよく合うと思います」。そう話すのは、JAL新潟支店長の筒井玲子さん(48)。
そらとなでしこ(500ミリリットル、2200円)はピンクと水色、2種類の瓶がある。おしゃれな印象を醸し出しつつ、「酒米の王者」と呼ばれる山田錦(弥彦村産)を使った本格派だ。
新潟酒販が女性の1級酒造技能士がいる弥彦酒造とともに、「女性参加による酒造り」のプロジェクトを始めたのは2021年。「READY!LADY!READY!(レディーレディーレディー)」の商品名で生原酒などを造った。
2回目の昨年から、地域貢献を目指すJAL新潟支店が参加した。「新潟といえば、やはり日本酒。女性にも手に取ってもらえるよう知識を深め、発信していきたいと思いました」(筒井さん)
活動の中心となったのは新潟支店に所属する客室乗務員(CA)で、「JALふるさとアンバサダー」の肩書を持つ小川良美さん(31)だ。小川さんは新潟県新発田市生まれ。「最初、酒米の田植えに行った時は、足を取られてまともに動けませんでした」と笑う。

「そらとなでしこ」の共同開発に関わった日本航空新潟支店長の筒井玲子さん(左)と、JALふるさとアンバサダーの客室乗務員、小川良美さん=新潟市中央区の新潟支店
作業には新潟ゆかりのCAによる「ふるさと応援隊」や、新潟県外での販売を担当する近鉄百貨店(大阪)の女性社員なども参加。小川さんは農家や蔵人と交流し、酒造りの各工程に参加していくうちに「おいしい酒を造りたい」という気持ちが強くなったという。そらとなでしこの名前を付け、瓶のラベルに飛行機とCAをイメージした女性のイラストも描いた。
印象に残っているのは、女性チームの「平等で、和気あいあいとした雰囲気」。職業の異なるメンバーが垣根を越えて意見を言い合い、一つの目標に向かっていく。「素晴らしい経験だったと思います」
新潟酒販のチームには、20代から50代までの女性社員が参加した。「レディーレディーレディーの名称を考えたのは20代。若い人は、アイデアを持っている。酒造りの現場に触れて、初めて分かったことは多いですね」。チームリーダーのマーケティング部係長、小柳佳子さん(53)は言う。

女性による酒造りのプロジェクトを担当した新潟酒販の女性チーム。中央がリーダーの係長、小柳佳子さん=新潟市西区の同社
「女性が日本酒に関心を持ってほしいと始めたプロジェクトだが、ありがたいことに評判もいい」と話すのは、新潟酒販特販部長の熊倉章さん(64)。今後も県内企業とコラボし、女性による酒造りを発信していきたいという。地酒王国の看板に女性のパワーが加われば、新潟はもっと魅力的な産地になれそうだ。
◆かつては「女人禁制」、今は協力して挑戦

弥彦村の「越後一宮 弥彦神社」。弥彦酒造は神社への街道沿いにあり、お神酒(みき)を納めている
弥彦村の弥彦神社近く、北国街道沿いに銘酒「こしのはくせつ」で知られる弥彦酒造はある。
「レディー」シリーズの酒造りを技術面で支えた弥彦酒造管理部長、岡本裕美(ひろみ)さん(54)は、女性には珍しい1級酒造技能士を持つ。
「受付秘書募集と聞いていたのに、入社したらスパルタ教育が始まったんです」と笑う。「小さな蔵だから、何でもやらないといけなくて。いつの間にか、酒造りの現場で働くようになっていました」
「スパルタ」だったのは、専務取締役で製造責任者の大井源一郎さん(52)。自身も別の業界から弥彦酒造に入り、1級酒造技能士を取得した。

弥彦酒造の管理部長、岡本裕美さん(左)と専務取締役の大井源一郎さん。2人の間につるされた「杉玉」は酒造りのシンボル=弥彦村の弥彦酒造
かつて酒蔵は女人禁制とされ、いまも封建的な気風の名残があるという。「でも、僕らのところはそんな考え方はしていない。女性には、僕らでは気付けない目線があります」。評価の高い弥彦酒造の梅酒やジェラートは岡本さんの企画だ。
岡本さんは新潟酒販のプロジェクトに参加することになった時、緊張したという。「杜氏(とうじ)の資格があるとはいえ、自分でタンク1本仕込むのは初めてでした」
空調を整備し、年中一定の温度に保って四季醸造を行う酒蔵もあるが、規模が小さな弥彦酒造は寒造りのみ。手作りの部分も多い。天候の変化や湿気、コメの扱い…。周りに相談しながら、工夫を重ねた。
当初、田んぼのヒルに悲鳴を上げていた女性チームも、作業を進めるうちにたくましくなっていったという。

弥彦村の弥彦酒造で、酒の仕込み作業に参加する日本航空の女性社員ら=2023年1月、新潟酒販提供
男性との体力差や女性ならではの体調の変化など、女性が酒造りをする上での悩みはある。「でも女性はまじめだし、いい面がたくさんある」と岡本さん。「作業の機械化、自動化が進めば、もっと参入しやすくなるはず。後進の育成にも力を入れたいです」
◆[ほろ酔いレシピ]若葉の季節感じるマリアージュ、今夜はワイングラスで一献

左がフキノトウとアンチョビのパスタ、右が栃尾の油揚げふきみそ挟み、奥が焼きソラマメ
「そらとなでしこ」に合わせる肴を考えながら新潟市内の「道の駅」に立ち寄った。上品な香りの酒なので、香りの山菜フキノトウを使ってみることにした。長岡市栃尾の名物、ビッグサイズのあぶらげ(油揚げ)も買う。ソラマメ(空豆)があったので、「空」の縁で購入した。
フキノトウで2品作ろう。切って水にさらし、さっとゆでて冷やす。まずは「フキノトウとアンチョビーのパスタ」。パスタは、指定された時間より1分少なくゆでる。オリーブオイルを熱し、刻んだニンニクとアンチョビー(一人2切れくらい)を炒めた後、フキノトウとパスタを入れてさっと炒める。塩気が足りなければ、好みで塩を。
次は、「栃尾の油揚げふきみそ挟み」。みそと砂糖、酒を混ぜ、熱したフライパンにごま油でゆっくり炒める。わが家ではみそ3、砂糖2くらいの割合に酒を少々だが、味はお好みで。これにフキノトウを加え、さっと炒める。油揚げに挟み、焼けば出来上がりだが焦げ過ぎには注意。ソラマメはさやごとグリルで焼き、塩でいただく。
ほろ苦いフキノトウに初物のソラマメ。軽く冷やした「そらとなでしこ」をワイングラスに注ぐ。さわやかな5月の休日にふさわしい。女友達と飲みたいな。
◆[訪問・お買い物info]
◎新潟酒販 新潟県新潟市西区流通センター3丁目3番地1 電話025(260)3055(代表)
◎弥彦酒造 新潟県西蒲原郡弥彦村上泉1830番地1 電話0256(94)3100
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「還暦記者の新潟ほろ酔いコラム」(略称・新潟かんほろ)は原則第2、第4金曜にアップ。次回は「柏崎市の古民家料理店でタケノコを味わう」
◎noteでも連載 投稿サイトnoteでも、同名タイトルのスピンオフ連載を掲載中。17回目は「生まれてきたことの奇跡 弥彦神社のおでんこんにゃく」
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