米国の古い映画に出てきそう? 二十四時間営業のドライブイン兼ホテル「公楽園」=燕市熊森
米国の古い映画に出てきそう? 二十四時間営業のドライブイン兼ホテル「公楽園」=燕市熊森

 新潟のうまい酒と肴(さかな)を求めてふら~り、ふらり。酒席で人生の多くを学んだ新潟日報社の森沢真理・特別論説編集委員が、酒や肴、酒にまつわる出会いをつづるコラムです。にゃんこの「おかみ」もご一緒に!

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 「昭和レトロなスポットが残るまち」と、愛好者が熱いまなざしを注ぐのが新潟県燕市だ。珍しい「トーストサンド」の自販機が稼働するドライブインがあり、穏やかな時間の流れる純喫茶が人気を集める。一方、商店街では世界を旅してきた若い移住者が、テキーラが売り物のバーを営む。古さと新しさが同居するものづくりのまちで出合った味とは-。

 JR分水駅から車で約10分。国道116号沿い、燕市熊森にドライブイン兼ホテル「公楽園」はある。建物は年季が入り、米国のミステリー映画によく出てくるモーテル(運転者用のホテル)を思わせる。

 「1976(昭和51)年、先代の父がこれからは車で来店してもらう時代だと言って、軽食などの自販機を備えたドライブインを始めたんです。長距離トラックの運転手で大にぎわいでした」

 そう話すのは、公楽園を経営する山田修英さん(67)だ。米菓・みそなどの原材料米を扱う山修商店の代表取締役でもある。

公楽園を経営する山田修英さん。1階には自販機やゲーム機が並ぶ

 公楽園の1階には、開店間もない頃からあるトーストサンドの自販機や、明星食品のカップラーメン「カップリーナ」の自販機など、レアものが並ぶ。ゲームセンターも併設されている。2階がホテル部分だ。

 全国的に知られるようになったのは、2015年にNHKのドキュメンタリーで放映されてから。宿泊客の9割はレトロなホテルと自販機がお目当ての「観光客」だ。カップルが多く、県内外からやって来る。

公楽園のホテルの特別室はシャンデリアが印象的だ。松本清張原作の映画に出てきそうな雰囲気がある

 トーストサンドはハムとチーズ、2種類あるが、今回はチーズを購入した(300円)。鉄板で焼くため、焦げ目がしっかり付き、香ばしい。下ごしらえは従業員の手作業。食パン2枚にマーガリンを塗って具材を挟み、アルミホイルで包んでいく。何とも手の掛かっている自販機なのだ。

公楽園の自販機で買ったトーストとカップラーメン

▽愛すべき外観、純喫茶ロンドンへ

 次なる目的は燕市穀町(こくちょう)の「純喫茶ロンドン」。JR燕駅から歩いて5分。こちらは1967(昭和42)年に開店した。やや薄暗い店内にムードある照明、テーブルゲーム機が何とも懐かしい。

外観に昭和の薫りが漂う純喫茶ロンドン。地域の人に愛されてきた=燕市穀町

 何をいただこうか。ナポリタンやプリンアラモードに心引かれたが、本コラムのテーマは酒と肴。ビールに合うというミックスサンド(800円)を注文した。薄焼き卵にトマト、キュウリ、ハムなどが挟まれている。丁寧な仕事だ。

 「この辺りはスナックが多い。帰りに寄ってくださるお客さんもいるので、あっさりしたものを…と考えたメニューです」。マスターの夫とともに店を営む吉野春江さん(70)が、にこやかに言う。

 自販機のトーストサンドと、老舗喫茶店のミックスサンド。全く違うものだけれど、どちらも人の手のぬくもりを感じさせてくれる。

ミックスサンドは純喫茶ロンドンの人気メニューの一つ。店内にはテーブルゲーム機が残る

◆世界を旅した男、人・酒・地域の「トライアングル」!

 「ちょっと珍しい、テキーラ入りのビールはいかがですか?」

 燕市の宮町(みやちょう)商店街の一角にあるゲストハウス&バー「トライアングル」。経営者の沼田基(まもる)さん(37)=横浜市出身=が手際よく、テキーラ入りビールをサーブしてくれた。

「トライアングル」を経営する沼田基さん。バーの名物はテキーラ

 テキーラはメキシコの蒸留酒。世界を旅した沼田さんお気に入りのお酒だ。ビールの味はやや甘く、アルコール度数は高め。ササッと作ってくれたスルメイカのパスタにぴったりだ。

 「お酒を通して人とつながる」が沼田さんのコンセプト。「日本酒は酔うのに1時間かかるけど、テキーラは30分。隣の人と早く仲良くなって、たくさん話せるでしょ。僕もバーでは全力で会話をします」

 オープンは2019年。元々は電気工事会社の現場監督だったが、仕事を辞めて46カ国を回るうち「ゲストハウスを開きたい」と考えるようになった。

燕市宮町3のゲストハウス&バー「トライアングル」

 この地を訪れたのは、フィリピンで知り合った三条市の友人に誘われたのがきっかけ。昔ながらの商店街が残る燕市の物件が気に入り、開業を決めた。各地で知り合った友人や外国籍の人もやって来る。

 「移住を決めた理由? 人間ですね。この地域では『こんなことをしたい』と言うと、人が人を紹介してくれて、数珠つながりに関係が広がる。面白いです」

 新型コロナウイルスの流行には悩まされた。ゲストハウスの休業を余儀なくされた時期もある。シェアハウスを営み、昨年にはサッカーなどの中継を楽しめるスポーツバーを始めた。

 夜は更け、常連さんが入ってきた。ぱっと場が明るくなる。5月には祭りがあるそうで「ぜひ来て!」と誘われた。地域の祭りを誇りにするって、いいな。

◆再現に挑戦!自販機トースト ハイボールにキュウリをインしてグイっ!

公楽園の自販機風チーズトースト。焦げ過ぎた部分は削って食べました。キュウリ入りハイボールは爽やか

 燕市には個人的な思い出がある。洋食器などの磨き職人だった祖父が住んでいたからだ。子どもの頃は、夏休みのたびに行った。

 わが家には、祖父手製の鉄製フライパンがある。これで「公楽園風チーズトーストサンド」を作ってみよう。米国でよく食べるホットサンド、「グリルドチーズサンドイッチ」のレシピでよさそうだ。

 薄めの食パンを2枚用意し、それぞれ片面にバターを塗る。フライパンに、バターを塗った面を下にしてパンを1枚置き、溶けるチーズを載せる。もう1枚のパンを、バターを塗った面を上にして重ねる。あとは焼くだけ。焦げ目をしっかり付けようとしたら、焼き過ぎてしまった…。

 お酒はどうしよう。燕市には、吉田本町(もとまち)の特産「もとまちきゅうり」を入れたご当地ハイボールがあるそうなので、それを参考にアレンジしたい。

 新潟県三条地域振興局農業振興部のホームページによれば、もとまちきゅうりは甘みが強く、爽やかな食感が特徴。出荷は2月下旬からとのことなので、今回は普通のキュウリを使った。

 ハイボール缶を開け、薄切りのキュウリ、ユズを添える。韓国焼酎にキュウリを入れる飲み方はあるが、ハイボールでは初めて。さっぱりしていて、チーズサンドと合う。次回は、もとまちきゅうりで味わいたい。

実は昭和レトロ好き?スタイルはサ●エさんちの…

◆[訪問info]

◎公楽園 燕市熊森1283-1 二十四時間営業 ホテル1泊2900円 電話0256(97)1575

◎純喫茶ロンドン 燕市穀町3-1-1 午前11時半〜午前0時 休み不定休 電話0256(62)3615

◎トライアングル 燕市宮町3-6 午後6時〜午後11時 休み月曜と隔週火曜 酒、フードは500~800円くらい 電話070(3990)0914

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 「還暦記者の新潟ほろ酔いコラム」(略称・新潟かんほろ)は原則第2、第4金曜にアップ。次回は2月17日に「『徳川家康』作者・山岡荘八が愛した酒」を掲載する予定です。

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◎noteでも連載 投稿サイトnoteでも、同名タイトルのスピンオフ連載を掲載中。11回目は「1997年の日本シリーズ 涙の焼きそばとヤクルト『つば九郎米弁当』」

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▽「さけ」は「酒」だけにあらず!

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