新潟のうまい酒と肴(さかな)を求めてふら~り、ふらり。酒席で人生の多くを学んだ新潟日報社の森沢真理・特別論説編集委員が、酒や肴、酒にまつわる出会いをつづるコラムです。にゃんこの「おかみ」もご一緒に!
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ジャパニーズウイスキーのブームを受け、新潟県でも個性あふれるクラフトウイスキーの蒸留所が注目を集めている。新潟市江南区の「新潟小規模蒸溜所(じょうりゅうじょ)」が2023年3月、世界最高峰とされるウイスキーの国際品評会の未熟成原酒部門で、世界最高賞に輝いた。大麦麦芽を原料に、単一の蒸留所で造るシングルモルトウイスキーを中心に、蒸留を開始したのは2021年。わずか2年での快挙だ。また、村上市に設立された「吉田電材蒸留所」は、コーンやライ麦などさまざまな穀物を原料にするグレーンウイスキーが専門の国内でも珍しい蒸留所だ。
新潟小規模蒸溜所は、印章製造販売大手の大谷などが出資して、設立した。大谷の参入は、デジタル化などで印章業界の先行きが厳しくなっていることや、国産ウイスキーへの人気の高まりが背景にある。ウイスキー蒸留施設「新潟亀田蒸溜所」は、亀田工業団地内にある。
取締役社長、堂田浩之さん(47)が迎えてくれた。品評会「ワールド・ウイスキー・アワード」で最高賞を獲得した商品「新潟亀田ニューポット ピーテッド」を見せてもらった。ニューポット(ニューメーク)とは、たるで熟成する前の透明な原酒のこと。大麦麦芽をピート(泥炭)でいぶして、香りを付けたタイプだ。

新潟亀田蒸溜所でウイスキーを熟成するたるに手をかける堂田浩之社長=新潟市江南区
英国産の大麦を使い、フルーティーかつスモーキーな香りが特徴。200ミリリットル2800円で販売していたが、注文が殺到し、販売を中止した。
「国内1位を目指して頑張ってきましたが、まさか世界最高賞をいただけるとは…」。堂田さんが頰をほころばせる。本格的なウイスキーとして出すのは3年以上、たるで熟成させてから。「これからが本番。プレッシャーもあります」
短期間で受賞できた最大の理由は「改善のスピードの速さだと思う」。事業改善の仕組み「計画・実施・評価・改善(PDCA)サイクル」を回し、問題点を徹底的につぶしていった。

ウイスキー品評会の未熟成原酒部門で世界最高賞を取った「新潟亀田ニューポット ピーテッド」=新潟市江南区
堂田さんとともにウイスキー造りに取り組んで来たのが、新潟市中央区でバー「Σ(シグマ)」を経営する近藤康夫さん(43)だ。「世界で勝負するには印象に残る味でなければと考え、ピート香の強いものを使いました」と言う。
ウイスキーは穀物を麦芽の酵素で「糖化」し、これに酵母を加えてアルコール発酵させた後、蒸留する。「ニューポットは複数の酵母を、発酵段階から混ぜて使っているのが特徴。発酵時間も長めに取り、複雑な味わいにしました」
「亀田蒸溜所」シリーズは品薄の状態だが、シグマでは6種類を提供する。最高賞を取ったニューポットはこの日、品切れ。新潟産の原料を使った「ニューポット 新潟バーレイ」と、たるでの熟成が3年未満という「ニューボーン ノンピート」を頼んでみた。

近藤康夫さんが「丸氷」で新潟亀田蒸溜所のウイスキーを出してくれた。丸氷は新潟市・古町に最初の本格的なバー「舶来居酒屋 和田」を出した和田真明さん(故人)が広めたという=新潟市中央区の「Σ」
丸い氷のオンザロックでいただく。ニューポットは荒々しい味わいを覚悟したが、まろやかで甘みがある。「フレーバー(香り、風味のある)なウオッカ」という表現がぴったりだ。きれいな琥珀(こはく)色のニューボーンは若いウイスキーなのに、香りがいい。熟成の進んだ後が楽しみだ。
◆小規模蒸留所では異色、「グレーン」専業に
吉田電材蒸留所(新潟村上市)
ウイスキーの原酒は大きく分けて、モルトとグレーンの2種類がある。大麦麦芽を原料とするモルトウイスキーは、風味が強く個性的な味わいが特徴だ。一方、コーンやライ麦、小麦などさまざまな穀類と麦芽を原料に発酵させて造るグレーンは穏やかな味わい。ブレンデッドウイスキーは、モルトとグレーンの良さを引き出すようにブレンドしてつくる。
新潟県村上市宿田(やずた)の吉田電材蒸留所は、クラフトウイスキーでは国内初とされるグレーン専業の蒸留所だ。産業機器設計・製造の吉田電材工業(東京)とヨシデン(胎内市)が設立し、2022年10月に開所した。
「蒸留所のロゴマークは、ヨシデンが手掛ける変圧器のコイルをイメージしました」。そう話すのは吉田電材工業の代表取締役社長で、蒸留所所長を兼務する松本匡史(こうじ)さん(49)だ。

JR平林駅近くにある吉田電材蒸留所。黒い建物とコイルのロゴマークが目を引く=村上市宿田
高度経済成長時代のものづくりを支えた吉田電材工業が、旧黒川村(胎内市)に工場を建てたのは1974年。日本列島改造論で知られる田中角栄元首相が成立させた工業再配置促進法を受けた形だった。
ウイスキー事業参入のきっかけは、新型コロナウイルスの流行だった。蒸留所が建っている場所は「本業」の業務拡張用地だったが、新型ウイルスのため、足踏み状態に。
ウイスキーの愛好家で、業界に人脈もある松本さんには「いつか蒸留所を造りたい」という思いがあった。ウイスキー事業に踏み出す契機となったのは、国の「事業再構築補助金」に応募して、採択されたこと。新型ウイルスで打撃を受けた中小企業などが対象で、新分野への展開や業態転換などを支援するものだ。事業計画を練る中で、グレーン専業なら新事業として成り立つ可能性を感じたという。大谷参入のニュースも背を押す形になった。

吉田電材蒸留所のメンバー。中央が蒸留所所長で吉田電材工業の社長、松本匡史さん=村上市宿田
目標は、「ジャパニーズウイスキーの多様性」に貢献すること。国内の小規模蒸留所はモルトが中心だ。グレーンは原料や比率によって、多彩な味わいになる。吉田電材蒸留所では、個性豊かで付加価値の高い商品を目指す。
「将来は、原料を100%国産にしたい」と松本さん。「新潟小規模蒸溜所」とは情報交換などの交流をしている。「堂田(浩之)さんのモルトとうちのグレーンを使い、新潟で造ったブレンデッドウイスキーを出したいね、と話しています」
現在は、バーボンタイプ(アメリカンタイプ)のウイスキーを試作中。今年の冬には、国内のウイスキーのフェスティバルに出品したい意向だ。
◆[ほろ酔いレシピ]ウイスキーに合うつまみは…?
キーワードは「甘み」、サクランボの冷製パスタに挑戦
今回、登場してもらった人たちに、ウイスキーに合うつまみを聞いた。答えは果物やチョコレート、笹団子などで、甘みがキーワードのようだ。季節の果物、サクランボで冷たいパスタを作ることにした。笹団子も買ってきた。
購入したサクランボは新潟市南区産の「紅さやか」。アメリカンチェリーのように、果肉が黒っぽい。種を取って二つに切る。プチトマトも切り、生ハムはちぎっておく。

サクランボとトマト、生ハムの冷たいパスタ(左)と笹団子、カマンベールチーズ
果物の冷製パスタは細いものを使うことが多いが、自宅にあるのは普通のサイズ。気にせずに袋に書いてある時間通りにゆで、氷水で締める。
果物の味を楽しみたいので、ソースはシンプルに。オリーブ油に酢(今回はリンゴ酢を使った)、塩少々を混ぜる。パスタや具とあえ、自宅の庭にあるレモングラスを飾った。サクランボの甘酸っぱさと生ハムの塩味が合うが、パスタは細い方が食べやすいかも。笹団子は冷蔵庫にあったカマンベールチーズと合わせたら、好相性でした。
◆[買い物・訪問info]
◎新潟小規模蒸溜所 新潟市江南区亀田工業団地1-3-5 電話025(382)0066(代表)
◎バーΣ 新潟市中央区古町通7-1005-3橋田ビル504 営業時間午後8時〜午前2時 不定休 電話025(229)6336 ウイスキーは1杯1300円くらい
◎吉田電材蒸留所 新潟県村上市宿田344-1 電話0254(75)5081
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◆[特別採録]やっちゃいました!「かんほろナイト」
読者やコラムの登場人物、筆者らがビール片手に交流
新潟市出身の戦没画家、金子孝信(1915〜42年)を語る交流イベント「新潟かんほろ」ナイト(新潟日報社主催)が、新潟市中央区の沼垂ビアパブで開かれた。孝信は1930年代の銀座を闊歩(かっぽ)するモダンな女性像で知られる。読者ら30人が参加し、孝信の「美人画」をイメージしたクラフトビール、沼垂ビールを味わいながら、トークや生演奏を楽しんだ。
「新潟かんほろ」は、新潟日報デジタルプラスで連載中の「還暦記者の新潟ほろ酔いコラム」の略称。6月9日夜のトークでは孝信のおいで蒲原神社の宮司、金子隆弘さん(93)が「孝信はいつもスケッチブックに絵を描いていた」と回想し、「沼垂ビールを通じ、孝信のことを知ってもらえるとうれしい」と述べた。

金子孝信の生涯や沼垂ビールとの関わりなどをテーマに行われた「新潟かんほろ」ナイトのトーク=6月9日、新潟市中央区の沼垂ビアパブ
沼垂ビール代表の高野善松さん(68)は、「銀座裏通り」という絵をラベルにしたビール、「恋すてふ」について解説。「絵には女性の横顔が描かれている。彼女を見つめ、恋する男性がいる、という物語を考えた」という。
「新潟かんほろ」担当の森沢真理・特別論説編集委員(63)は「1930年代の孝信の日記には、銀座でビールを飲む記述が出て来る。当時の銀座と現代の新潟を、ビールがつなぐ形になっているのが面白く、コラムにした」と話した。
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「還暦記者の新潟ほろ酔いコラム」(略称・新潟かんほろ)は原則第2、第4金曜にアップ。次回は「歌人・書家の會津八一 その人生と酒」の予定です。
◎noteでも連載 投稿サイトnoteでも、同名タイトルのスピンオフ連載を掲載中。20回目は「わが愛しの相棒 ウイスキー・キャットと茶トラ猫福助」
▽noteはコチラ(外部サイト)
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▽「さけ」は「酒」だけにあらず!
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