新潟のうまい酒と肴(さかな)を求めてふら~り、ふらり。酒席で人生の多くを学んだ新潟日報社の森沢真理・特別論説編集委員が、酒や肴、酒にまつわる出会いをつづるコラムです。にゃんこの「おかみ」もご一緒に!
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酒屋でお酒を買い、軒下や店内で飲む「角(かく)打ち」。工場や炭鉱で働く人が多かった北九州エリアが発祥の地といわれる。本来の意味に加えて、気楽に立ち飲みができる酒場を角打ちと呼ぶことも。近年は首都圏などの大都市部で流行し、日本酒王国の新潟県でも注目を集めている。角打ちでサラリーマンに人気の酒店や、珍しい地酒を有料試飲できる酒店、若者や女性に人気の「角打ち」酒場を訪ねた。
私は角打ちは未体験である。新聞社は近年、女性の採用が増えたけれど、中高年は男性が圧倒的に多い。仕事が終わった後まで、「おじさんの聖地」というイメージが強い角打ちに行かなくても…と思っていた。
最初に訪ねたのは、新潟県庁(新潟市中央区新光町)の向かいにある板井商店。常連らしきお客さんが、店内で買ったビールや焼き鳥缶をテーブルに並べ、うれしそうに飲んでいた。
官庁街らしく、角打ちの利用者は県庁や県警、海上保安庁関係者などで、単身赴任者が多いという。定年を迎えた人や、県外に転勤した人が、飲みに来ることもあるそうだ。
「特に、角打ちをやろうと思ったわけではないんですよ。2000年代後半かな。店外で飲んでいたお客さんが寒そうだったので、中にどうぞ、と言ったのが始まり」。そう話すのは店主、板井満幸さん(80)の長女、香裕子(かゆこ)さん(54)だ。

板井酒店の板井香裕子さん。店内には新潟の銘酒が並び、飲み比べもできる
県庁が建設される前、新光町には日本軽金属新潟工場があった。工場で働く人は3交代制の仕事が終わると、店の外でお酒を飲んでいったという。こうした風景はかつて、全国で見られたのだろう。
店内に並ぶのは、越乃寒梅に八海山、麒麟山など新潟の銘酒。千円札2枚くらいあれば、純米吟醸の四合瓶(720ミリリットル)が買える。お札1枚でも、発泡酒にカップ酒、乾き物くらいは大丈夫。この安さは大きな魅力だ。
プラスチックのカップや皿はお店が提供し、一升瓶の酒が余ったら冷蔵庫で保管もしてくれる。
私も缶ビールと缶詰を買って座った。「まあ、一杯」。常連さんが一升瓶からついでくれた。こちらもビールでお返しする。
「これも食べてみて」。満幸さんが出してくれたのは、この時季の新潟の珍味「アカヒゲ」。サクラエビの仲間で、刺し身や塩辛などで食べるが、流通量は少ない。「新潟のために、この味を守りたいし、みんなに知ってほしい。知り合いの漁師さんから水揚げがあったと聞くと、お客さんにごちそうするんだ」

店内でビールと缶詰を買って、角打ちデビュー。お店からアカヒゲをごちそうになった=板井酒店
アカヒゲの刺し身を口に含むと、潮の香りが広がった。名だたる銘酒と日本海の味覚が並ぶ新潟の角打ち。ゴージャス過ぎる…。銀座ならいくらするだろう。
隣の人との距離が近く、懐を気にせずに飲める場所。何か、いいな。ただし、角打ちで長居は野暮(やぼ)と聞いた。ほんのり楽しい気分で、サクッと引き揚げることにしましょう。
◆「推し」の酒を味わう「有料試飲」スタイルも
角打ちは客が酒を選んで買う形式だが、酒店が「推し」の酒をセレクトして提供する「有料試飲」も増えている。
新潟市中央区の大坂酒店はその一つだ。エレキギターや、動物を模したアートなとっくりが並ぶ空間。5年ほど前に改装した際、座って飲めるカウンターを設けた。
「お客さんと酒との出会いの場を設けたかった。季節ごとにお薦めを変えています」。酒蔵で修業し、酒造技能士2級の資格を持つ4代目、大坂恵太さん(32)は言う。

エレキギターや、陶芸家が作ったユーモラスなとっくりが飾られた大坂酒店=新潟市中央区
有料で試飲できるのは青木酒造(南魚沼市)の「鶴齢」純米吟醸など「3種呑み比べ」と、「越の白鳥(上越市の新潟第一酒造)呑み比べ」の2セット(各500円)。
お薦めを聞くと、越の白鳥の「特別純米酒 仕込み10号 無濾過(むろか)生原酒」を教えてくれた。入手しづらい銘柄もあり、品ぞろえのレベルは高い。関東などからもお客さんが来るそうだ。

4代目の大坂恵太さんが選んだ季節の酒が500円で試飲できる=大坂酒店
長岡市大手通にある「角打ち+81カネセ商店」は、角打ちのイメージを打ち出した飲食店。長いカウンターに、いすが並ぶ。新潟県外の日本酒を多く扱う酒販店、カネセ商店(長岡市与板町)が経営しているだけに、新潟だけでなく、全国の酒を味わえるのが売り物だ。
店長の田中茂徳さん(33)は「国際電話で81は日本の国番号。日本酒のよさを海外に発信しよう、という意味があります」と話す。消防士だったが、日本酒の魅力にはまり転職。酒蔵での修業を経て、2021年からこの店で働く。
「新潟県内と県外で気になるお酒は?」と聞くと、しばし黙考。若手蔵人集団が造る佐渡市・天領盃酒造の「雅楽代(うたしろ)」の無濾過生原酒と、甘みと酸味のバランスがいい群馬県・聖(ひじり)酒造の「聖」純米吟醸生酒を挙げてくれた。

元消防士の店長、田中茂徳さん。肴はラムギョーザやパスタなどが人気とか=長岡市の角打ち+81カネセ商店
扱う日本酒は25〜30種ほどある。お客にとってうれしいのが「セルフ酒」という仕組みだ。角打ちのように、お客が自分で瓶から酒を注ぐ場合は割安で飲める。「新型ウイルスの流行で遠出が難しい時期が続いたけれど、お酒で気軽に旅行気分を味わってもらえれば」と話す。
◆[ほろ酔いレシピ]角打ちっていえば、やっぱり缶詰でしょ
ちょっぴりアレンジで乙な肴に
自宅で角打ち気分を味わいたいなら、缶詰を肴にして飲むのが乙(おつ)だ。オイルサーディン缶とツナコーン缶をアレンジし、冷蔵庫にあった魚肉ソーセージの残りも使ってみた。
オイルサーディンは、チューブに入ったニンニクと刻んだネギ、切ったユズを乗せて、缶ごと火にかける。油がグツグツしてきたら、出来上がり。アヒージョ風の味わいになる。
ツナコーンは刻んだ玉ねぎと混ぜ、ぽん酢にごま油を加えて味付けする。冷蔵庫にあった豆板醤(トウバンジャン)を添える。

手前がオイルサーディンのアヒージョ風、奥の左が魚肉ソーセージ焼き、右がツナのあえもの。新潟日報朝刊に乗せた
魚肉ソーセージは厚さ5ミリくらいに薄く切り、グリルで焼くと、カリッとした食感になる。10分で3品、できました。
お酒はカップ酒で。テーブルクロス代わりに古新聞を敷き、記事を拾い読みしながら飲む。猫おかみの安吾ちゃんが見に来たけれど、人間の食べ物は塩辛いからあげないよ。
◆[買い物・見学info]
◎板井商店 新潟市中央区出来島1の5の47 営業午前8時半〜午後7時(角打ちは営業時間中ならいつでも) 定休日曜・祝日 電話025(283)6400
◎大坂酒店 新潟市中央区東堀通5の425 営業午前8時半〜午後6時(有料試飲は営業時間中ならいつでも) 定休日曜・祝日 電話025(222)7877
◎角打ち+81カネセ商店 新潟県長岡市大手通1の4の9メゾン大手1階 営業火〜土曜日・祝前日午後5時〜午後11時、日曜・祝日午後3時〜午後9時 定休月曜 電話0258(37)3137
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「還暦記者の新潟ほろ酔いコラム」(略称・新潟かんほろ)は原則第2、第4金曜にアップ。次回は「選挙取材で出合った味 上越の『するてん』」
◎noteでも連載 投稿サイトnoteでも、同名タイトルのスピンオフ連載を掲載中。14回目は「出張時の『リーズナブルでうまい店」探訪術」
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