
新潟・魚沼のイメージは? 米、雪、日本酒…、これらに加えてほしいのが、ホルモン。それも生ホルモンだ。僕が初めて、この存在を知ったのは、今から10年以上前、自身が編集長を務める雑誌で肉特集を企画した時のこと。リサーチの中で、知り合いの飲食店オーナーが「ビールと楽しみたいから電車に乗ってまで食べに行く店がある」と教えてくれたのがきっかけだった。場所は旧小出町(現新潟県魚沼市)。
小出で生ホルモン? その鍵は70年ほど前にさかのぼる。1953年から奥只見ダムの建設が始まり、多くの労働者がこの町に集まった。中には中国などにルーツを持つ人も多かったそうだ。
一方、小出では養豚業が盛んで、食肉処理場が近くにあり、新鮮な豚ホルモンが手に入る土壌があった。ホルモンを食べる習慣のあった大陸ルーツの人々がこの新鮮なホルモンを見逃すわけはない。
あっという間に下ゆでせずに生の豚ホルモンを焼いて食べる「生ホルモン文化」が広まり、定着した。各地にある豚ホルモン焼きは下ゆでしたものを使うのが一般的だという。この地で生を焼いて食べるようになった経緯は、こういうことらしい。
小島岳大(酒ジャーナリスト・ライター)
撮影は写真家・渡部佳則
飯、飯、そして追い飯、コメが進む秀逸な煮込み
美の屋
創業は42年前、昼から酒が飲めて、ホルモンを食べられる名店「美の屋」(新潟県魚沼市七日市新田)にお邪魔した。ご主人の...
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