和服を着る機会が、とんとない。70代の母も同じようで、祖母が残した浴衣を送ってきた。もったいないから夏のワンピースに仕立て直してほしいという

▼ほどいてみて驚いた。襟や袖など、どの部分も長方形の布に戻る。全ての布を並べると元の反物の形が現れた。曲線の多いパーツを切り出して作る洋服と違い、裁ち落としが全くない

▼無駄のなさは裁断だけではない。江戸の暮らしに詳しい作家の石川英輔さんは、着物は「根本的にリサイクル構造になっていた」と説く。着付けで調整が利くので体形が変わっても着続けられ、古着で買うときにもサイズを選ばない。ほどいた布も、子ども用や他の布小物に作り替えやすい

▼さて、大半を洋服で過ごす現在の衣料事情はどうだろう。環境省の推計では国内で2020年に供給された衣類は約82万トンで、このうち6割超が捨てられる。1年間で1回も着ない服は1人当たり25枚に上る。健全な状態とは言いがたい

▼原料の調達から廃棄までに多くの二酸化炭素を排出し、大量の水を使うなど環境への負荷も大きい。古着を回収したり、リサイクル素材の服を扱ったりと対策を進めるメーカーもあるが、消費者側も意識の変化を求められる

▼国は「サステナブル(持続可能な)ファッション」を掲げ、1着を長く着ることや修繕、古着の活用を勧める。思えばどれも先人が普通にしていた行いばかり。「持続可能」と、ことさら身構えなくとも、手元の浴衣から学べる知恵は多くありそうだ。

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