きょうは、朝ドラでにわかに注目が高まる小泉八雲ことラフカディオ・ハーンと、ちょっとした縁のある日だ。11月5日は「津波防災の日」であり「世界津波の日」でもあると言えば、ピンと来る人がいるだろうか

▼171年前のきょう、安政南海地震が発生した。大津波から多くの命を救った逸話が「稲むらの火」である。海沿いの村の庄屋が村人を避難させるため、収穫したばかりの大量の稲に火を放ち、人々を高台に誘導したという実話に基づく物語だ

▼原作を最初に書き残し、国内外に広める端緒を開いたのが八雲だった。自著「仏の畑の落穂」に「生き神様」の題名で収録した。「ツナミ」を世界共通語にしたきっかけになったとも言われ、世界津波の日の制定にもつながった

▼八雲はこの作品で、地震後に庄屋をまつるお宮を造った村人の精神性について描いた。善良さ、辛抱強さ、素朴な心などを日本の美質とした八雲は「日本人よりも本当の日本を愛するです」と語った。妻の節子が「思い出の記」に記す

▼そうした美質を、八雲は今の日本にも見いだすだろうか。日本人ファーストなどと露骨な言葉が出回り、排外主義につながりかねない空気が漂う中で「ジゴク、ジゴク」とかんしゃくを起こすかもしれない

▼八雲が愛した日本は、世界の真ん中で咲き誇ろうと拳を振り上げるような国のありようとも、恐らく違う。人は身を置く器の何に愛着や誇りを感じるのか。代表質問が始まった国会論戦を聞きながら思いを巡らす。

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