50歳になった頃、何となく思った。たとえ戦争になったとしても、この年になれば召集されることはないだろう-。甘かった。ロシアの侵攻を受けたウクライナでは総動員令が発令され、18~60歳の男性は原則出国が認められなくなった

▼国家が国民を一定期間兵役に就かせる徴兵制は冷戦後、東西の緊張緩和や財政難のため、欧州を中心に廃止の動きが加速した。しかし、ここへ来てロシアの脅威の高まりで、リトアニアやスウェーデンなどが徴兵制を復活させた

▼近年の戦争はハイテク化が進み、一般人が短期間訓練を受けただけでは戦力になるのは難しいと指摘される。それでも、ロシアは徴兵した若者らを数多く前線に送り込んだ。現実には多くの国や地域が市民に兵役の義務を課す

▼日本では徴兵制は違憲とされる。ただ、太平洋戦争の時代までは多くの人が召集された。堀之内町(現魚沼市)出身の歌人、宮柊二も2度にわたって戦場に送られた。戦争にまつわる歌も多く残した

▼〈弾丸(たま)がわれに集りありと知りしときひれ伏してかくる近視眼鏡を〉。小欄の左上にあるコーナー「宮柊二 言の葉の泉」が先日紹介した作品だ。自分が標的にされていることに気づいた時の恐怖は、いかばかりだったか

▼好きこのんで戦場に足を踏み入れる人は多くあるまい。ウクライナでは徴兵逃れに絡んだ汚職が横行しているという。許されない行為かもしれないが、銃など手にしたくないという人が多くいることの表れでもあるのではないか。

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