9月に入っても真夏を思わせる日がある。夏バテを引きずり食欲は細ったまま。せめて、そうめんでもと台所に立つが、ぬるま湯のような水道水ではさして冷えず、麺は引き締まらない。ぐったりしたわが身も一向に引き締まらない

▼気分のいい所があると同僚に教えられ、上越市柿崎区の大出口泉水を訪れた。標高757メートルの尾神岳の中腹から湧き出ている。降雨がほとんどなかった夏を経ても、こんこんと湧く。素手ですくうと驚いた。「冷たっ!」。1年を通し、水温は8度前後という

▼1日に約4千トンも流れ出る軟水で、2008年に環境省の「平成の名水百選」に選ばれた。泉は棚田が広がる高台にあり、頸城平野と日本海を一望できる景観にも見入ってしまう

▼清らかな名水は、過疎化が進む地域が大切に守り続けてきた。地元の頚城酒造と農業者グループ「柿崎を食べる会」は、泉水を生かした特産品作りと地域活性化に取り組んでいる

▼泉が潤す棚田で酒米を育てる。その酒米と湧き水で日本酒を仕込む。酒の名は「久比岐 和希水(わきみず)」だ。地元の小学6年生と一緒に、酒造りに使う米の田植えや収穫も続けている。子どもたちが20歳になる8年後に日本酒をプレゼントする粋な活動だ

▼せっかちな筆者は8年も待てないので、和希水を早速楽しんでみた。ふくよかで清らかなうまみが五臓六腑(ろっぷ)に染み渡り、細った食欲もよみがえってきた。暑さはしつこく続く予報。身も心も引き締め乗り越えたいが、心地よい秋が待ち遠しい。

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