「ヒスイは年齢でいうと5億歳なんです。糸魚川では一番の古株でしょう」。観光客を案内するガイドから、こんな言葉を聞いた。昨年秋に県の石に指定された糸魚川市産ヒスイは、悠久の時の流れを感じさせるロマンを秘める

▼約5億年前、地球の深部で生成され、長年の地殻変動で地上に押し上げられた。ヒスイは土石流や川の流れによって海や海岸に運ばれるが、その過程で砕かれ削られ、小さくなったのが海岸で見つかる石だ

▼地上に出るに当たり、ヒスイには「恩人」がいたという。運搬役となった蛇紋岩だ。周りの岩石よりも軽く浮力が働く。ヒスイなどを取り込んで地上まで運んだ。こうした軌跡を考えれば、一つ一つの石との出合いも奇跡といえるのかもしれない。糸魚川の海岸では蛇紋岩も含め20~30種の石が見られるという

▼このところ糸魚川の海岸で目立つのはスコップやバケツを持参した人たち。石探しの魅力を伝えたテレビ番組の影響も少なからずあったらしい

▼古くから人を魅了したのだろう。石に詳しい専門家は「万葉集にもヒスイを詠んだ歌がある。古代人が楽しんだヒスイ探しを今でもこの地域で楽しむことができる」と力を込める

▼波の音を聞き、太古からの歴史に思いをはせるのもいい。海岸で見つかるさまざまな石をプリントしたTシャツも販売され始めた。拾った石の種類を胸元と照らし合わせて確認できる。海水浴シーズンは終わったが、秋風が吹いても糸魚川の浜辺には楽しみが転がっている。

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