「お酒はぬるめの燗(かん)がいい。肴(さかな)はあぶったイカでいい…」。故阿久悠さんが手がけた詞を、八代亜紀さんが哀愁を帯びたハスキーな声で歌う。昭和の歌謡曲「舟唄」だ。1981年の映画「駅 STATION」の挿入歌でもあった
▼舞台の一つは、北海道にあった旧国鉄留萌線の終点、増毛(ましけ)駅だった。故高倉健さんが演じた孤独な刑事は、駅前で居酒屋を営む女性と恋仲に。別れの場面、舟唄が流れる中、その女性役の倍賞千恵子さんは涙を浮かべる。刑事は最終列車に乗り込む。テールランプの赤い光が小さくなっていくのがラストシーンだ
▼登場した数々の駅は、地域住民の暮らしを支えるローカル線にあった。しかし、87年に国鉄を引き継いだJR各社は利用者数減を理由に多くの鉄路を廃止してきた。留萌線も大半の区間が消え、増毛には観光客向けの駅舎が残るのみだ
▼JR各社は、新型ウイルス禍で経営が悪化した影響も挙げ、従来通りの運行が難しい鉄路が増えたと強調する。近年は全国的に、災害で被災した鉄路の復旧を諦める事例も少なくない
▼一方、鉄路維持の余地を残す動きもある。本県と山形県を結ぶ米坂線は、昨夏の豪雨で被災し一部区間で不通が続いているが、JR東日本は復旧を検討するとした
▼膠原(こうげん)病と診断された八代さんは、療養のため年内の活動を全て休止する。「必ず元気になって戻ってきますので待っててね」とのコメントを発表した。あの歌声と、米坂線の列車が元気に戻ってくる日を待ちたい。
