「屋敷を買うな、隣人を買え」。ロシアでは、こんなことわざが伝わるという。豪壮な邸宅を構えるより、いざという時に力になってくれる隣人を得る方が心強いという意味である

▼米国をはじめとする北大西洋条約機構(NATO)の脅威に対抗するには、かつて共にソ連を構成した、よき隣人ウクライナとの関係を手放すわけにはいかない。ロシアに言わせると、こうした理屈なのか

▼ロシアがウクライナに侵攻した。背景にはウクライナのNATO加盟を是が非でも阻止するというプーチン大統領の意思があるらしい。とはいえ、自国の安全保障を言い訳にして隣国を土足で踏みにじるような行為が許されるはずはない

▼すでに血が流れている。ロシアは攻撃対象は軍事施設と主張するが、空爆されたアパートと負傷した女性をとらえた写真も配信された。数万人規模の死傷者が出るとの予測もある。人の命はそんなに軽いのか

▼ロシアには「無理強いで愛は得られぬ」という教えもある。強大な武力で隣国を自らの陣営に引き入れようとしても、人の心までを奪うことはできない。戦争が生みだすのは限りない悲しみと恨みである

▼ロシア側とNATOが直接にらみ合うような事態に進む恐れも指摘される。世界は大戦の瀬戸際に立つ。ロシアのことわざを用いて警告したい。「森は奥へ行くほど薪が多い」。さらに進めば多くを得られるとも聞こえるが、実際には事件が進展すればするほど困難が増えるという否定的な意味だそうだ。

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