先日、発表された今年の新語・流行語大賞の候補の中で「蛙化現象」に目が留まった。シンクタンクが若年層を対象に調査した上半期トレンドランキングの言葉部門で1位になった。「かえるかげんしょう」と読む
▼元々は心理学の論文に使われた言葉だ。童話の「蛙の王様」に由来する。カエルを気味悪がるお姫様が、カエルが本来の王子様の姿に戻ると恋に落ちる。論文の筆者はこれを転じ、好意を寄せていた人が自分に振り向いた途端に嫌悪感を抱くことを蛙化現象と呼んだ。物語は「王子化」だが、反対に「カエル化」するというわけだ
▼近頃の若者の間では少しニュアンスが変わり、好きな人のささいな行動から気持ちが冷めることを指す。いずれにせよ「好き」から「嫌い」へと、正反対の感情に変化してしまう
▼若者はちょっとしたことで相手がカエルになったと思うようだ。飲食代を割り勘にする。買い物の会計でまごつく。親をパパ、ママと呼ぶ…。理想との落差に百年の恋も一瞬で冷めるのか
▼誰かをカエルにしてしまう若者がいれば、暴れ馬と化す中高年もいる。店員らに暴言を吐く「キレる老人」が話題になった。取るに足りない理由で怒る人もいた。さまつなことが許せないという点では、蛙化現象と通じる部分がある
▼相手の細かな言動を欠点とみなし、いちいち目くじらを立てていては人間関係は広がりを欠く。自己の価値観でしか他者を評価できないのは、大海を知ろうとしない井の中の蛙(かわず)にどこか似ている。
