上杉謙信が無類の酒飲みであったことはよく知られる。日頃は縁側に座り、梅干しをさかなに静かに飲んだと伝わる。量は相当だったようだ。戦場で馬に乗る際も「馬上杯」と呼ばれた酒器を手に、ぐびぐびと飲み干していたらしい

▼しかし、晩年にそのツケを払うことになる。関東への出陣を控え、厠(かわや)で昏倒し数日後に息を引き取った。49年の生涯だった。脳卒中だったとみられる。塩辛いものを好み、大酒を飲んでいたなら、かなりの高血圧だったのかもしれない

▼戦上手で知られた「軍神」の命を酒が奪ったのか。乱世に秩序を取り戻そうとした志は半ばでついえることになった。その生涯は、過度な飲酒がリスクを伴うことを今を生きる私たちに伝えている

▼アルコールによる健康障害を防ぐため、厚生労働省の検討会が飲酒に関するガイドラインを取りまとめた。生活習慣病リスクを高める飲酒量として、1日当たりの純アルコール量の目安を「男性40グラム以上、女性20グラム以上」と示した。20グラムは、ビール中瓶1本や日本酒1合に相当する

▼朝晩の寒さが募り、熱かんが恋しくなる季節。飲んべえを自認する身としては、この目安に「もう少し…」と言いたくもなるが、そもそも健康を害せば飲めなくなる

▼筑波大の研究チームが、こんな実験結果を発表した。酒をよく飲む人にノンアルコール飲料を提供すると、飲酒量が減り、その効果は提供終了後も続いたという。酒を買い求めるついでに、ノンアル飲料もかごに入れてみようか。

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