ロシアによるウクライナ侵攻が始まって以降、驚かされたのはロシア国内で大規模な反戦デモが起きたことだ。当局の手で鎮圧され、多数が拘束された。それでも弾圧されるリスクがある中で多くの人が声を上げたこと自体、思いがけないことだった

▼プーチン大統領は着々と政敵を葬ってきた。政界からは蛮行をいさめる声は聞こえない。侵攻の直前、ウクライナ東部の親ロシア派の独立承認について政権幹部が議論した会議の映像は、強烈な印象を残した

▼「いいえ、私は、私は…」。プーチン氏から独立の承認について意見を求められた幹部の一人は口ごもった。「はっきり答えて」と詰問されると、独立を「ロシア編入」と取り違え、プーチン氏から「そんな話はしていない」と苦言を呈された。異論を挟むなど許されないような雰囲気にのまれたのか

▼ほかの幹部は独立承認で口をそろえた。プーチン氏がイエスマンに囲まれていることが、あらためて浮き彫りになった。この状況を見るにつけ、ロシア国内で政権批判をすることがいかに勇気のいることか想像できる

▼一部のスポーツ選手ら著名人も反戦のメッセージを会員制交流サイト(SNS)に投稿した。今後は当局の締め付けが厳しくなるかもしれない。それでもロシアにも戦火を憂う人が数多くいることは世界を勇気づけた

▼プーチン氏の権力基盤はそう簡単には揺らぐまい。だが、その足元には反戦の水脈が間違いなく流れている。闇を照らす小さな一灯だと信じたい。

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