今読むと、なかなか皮肉である。「まつりごと清ければ人おのずから和す」。自民党最大派閥である安倍派「清和政策研究会(清和会)」は、この言葉から名付けられた。現在、政治資金を巡る裏金疑惑の渦中にある
▼中国の史書「晋書(しんじょ)」に出てくる「政清人和(せいせいじんわ)」との言葉が出典という。清廉な政治は人心を穏やかにする。その通りだろう。派閥を創設した福田赳夫元首相は、カネとポストで人を掌握する手法を好まなかったという
▼1972年の自民党総裁選。田中角栄氏とトップを争う福田氏は、田中氏を支持するとみられた中曽根康弘氏と会談することになった。会談を前にした車中で側近の森喜朗氏が進言した
▼「ここまで来たら道は二つ。一つは中曽根氏に幹事長ポストを約束してください」。福田氏ははねつけ、もう一つの道を尋ねた。「それはカネです。ドンと積んでください」。福田氏は車を止めさせ「ここで降りろ! 不愉快だ!」と怒りをあらわにした
▼森氏が後年のインタビューで振り返っている(五百旗頭(いおきべ)真(まこと)ら編「森喜朗 自民党と政権交代」)。この総裁選で、福田氏は敗れた。歳月は流れ、福田氏が創設した清和会も金権政治に染まってしまったのか。きのう臨時国会が閉会し、裏金疑惑は検察の捜査が本格化する
▼清和会だけではない。岸田文雄首相が領袖(りょうしゅう)だった派閥にも、パーティー収入の過少記載の疑いが浮上した。自民党全体の問題と見るべきだろう。過去にも多くの疑獄があった。どこまで根深いのか。