わが家の台所で曲げわっぱのおひつを使って、もう20年ほどになる。スギ材がごはんの水分を適度に吸収してくれるようだ。冷めてもおいしい、と感じる。曲げた材の端が裂けたように破損したことがあったが、修理に出すときれいになって戻ってきた
▼周囲を見渡せば、家の柱や天井板もスギだ。軽くて加工しやすいため、建材や生活用品の材料として古くから重宝された。まっすぐ高く伸びるから神聖な存在ともみなされた。伝染病が流行した際は「過ぎ」や「過ぎてよし」の語呂合わせから、スギやヨシを戸口につるすこともあったという
▼巨大化することでも知られる。本県では阿賀町の「将軍杉」が有名だ。威風堂々の姿を誇り、幹回りは実に19・31メートル。樹齢は1400年と推定される。平安時代に東北を治め、同町三川地域で晩年を過ごした平維茂(これもち)の墓標とも伝えられる
▼人の暮らしと密接に関わってきたスギだが、花粉症の問題が浮上して以降、すっかり悪者にされた。わが身も毎年悩まされているが、長い間人の役に立っていることを思うと少し気の毒でもある
▼政府は2024年度、花粉の発生源となるスギ人工林の伐採に乗り出すという。人工林のうち、都市部に近い約2割で伐採を進め、花粉飛散の少ない品種に植え替える。30年後には花粉の発生量を半減させることを目指すそうだ
▼大量の木が切られる。有効活用せねばなるまい。身の回りに、スギを使った品物が増えるだろうか。人とスギのいい関係をいま一度-。