経済を回復させ、安定軌道に乗せる契機としたい。それには、景気改善の実感が乏しい地方をはじめ、隅々まで好循環の流れを浸透させていくことが欠かせない。
日銀は19日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策の柱であるマイナス金利政策を解除することなどを決めた。
賃金と物価がそろって上がる好循環が見込めると判断したためだ。利上げは2007年以来17年ぶりで、金融政策が正常化に向けて踏み出すことになる。
植田和男総裁は、約11年に及んだ大規模緩和策は「役割を果たした」と述べた。
日銀が利上げに踏み切ったのは、物価が目標である2%以上で推移していることに加え、連合の中間集計で平均賃上げ率が33年ぶりの高さとなる5・28%となるなど、今春闘の好調さがある。
好調な企業業績と企業間の人材獲得競争の激化で、高水準の賃上げが相次ぐ。今後本格化する中小企業の春闘も、深刻な人手不足で賃上げが広がるとみられる。
ただ、中小には業績から賃上げに応えられない企業もある。
物価変動を加味した実質賃金は、1月まで22カ月連続で前年同月を下回り、国民の生活実感は上向いていない。好循環の実現には程遠い状況と言うべきだろう。
日銀は今回、長期金利を低く抑えるために行っていた長短金利操作を撤廃し、今後は短期金利を主たる政策手段とする。政策金利を0~0・1%程度とし、緩和的な金融環境は維持する方針だ。
金融機関が短期金利に連動する変動型住宅ローンや、企業の借入金利を上げるかが注目される。
ローンへの影響を気にする人は多い。植田総裁は「貸出金利が大幅に上昇するとはみていない」と見通しを述べたが、動向を注意深く見ていく必要がある。
物価目標が維持されれば、今後はさらなる利上げが視野に入る。
政府はこれまで、国の借金である国債をゼロに近い金利で大量発行して財政運営を続けてきた。しかし金利の上昇局面では、借金頼みの財政運営は続けられない。
財務省によると、国債の発行残高は1千兆円を超え、返済と利払いを合わせた国債費は27年度に34兆2千億円と、24年度予算案より7兆2千億円も増える。借金依存からの脱却は待ったなしだ。
企業にとっても、借り入れや社債のコストが増えることになる。金利に負けない成長を遂げられるように変革を迫られよう。
日銀は株式市場を安定させるための上場投資信託(ETF)の新規購入も終了する。中央銀行が企業の株価を買い支える政策は世界でも異例で、買い入れた巨額の資産の処分は課題として残る。
異次元緩和に慣れきった経済を、金融引き締めに耐えられる姿に再構築しなくてはならない。
