他国の領土を武力で蹂躙(じゅうりん)するロシアの暴挙を食い止めるためには、欠かせない武器供与だ。苦戦を強いられているウクライナ軍は、戦略を練り直し、態勢の立て直しを急ぎたい。

 米政府は、ロシアの侵攻を受けるウクライナを支援する約608億ドル(約9兆4千億円)の緊急予算を成立させた。

 これを受けバイデン政権は10億ドル相当と、過去最大の60億ドル相当の軍事支援を相次ぎ発表した。

 予算は昨年末にほぼ底をつき、継続支援ができなくなっていた。本格的な武器供与は、約4カ月ぶりとなる。

 緊急予算案は昨年10月にバイデン大統領が議会に求めたが、共和党保守強硬派の一部が米国内の不法移民対策を優先すべきだとして議会が迷走していた。

 緊急予算の成立まで半年もかかった背景には、バイデン氏と大統領選を争う共和党のトランプ前大統領が、強硬派議員を支配して支援に抵抗し続けたことがある。

 トランプ氏が、支援を贈与ではなく、一部を返済させる案を示し、ようやく成立へと動いた。

 最大の支援国である米国で、予算成立が遅れた影響は大きい。

 この間にウクライナ軍は弾薬の枯渇と兵器不足に陥り、戦況が悪化したからだ。ロシア軍は今年に入り、ウクライナ領土の360平方キロ(東京23区の約6割に相当)以上を制圧した。

 都市部では、工業インフラや集合住宅などもロシア軍のミサイル攻撃を受け、多数の住民が犠牲になった。防空能力が低下し、一部前線地域でロシア軍の航空機が自由に作戦を実行できているとの指摘もある。

 米から供給されるのは、前線で不足する砲弾や、防空強化に向けた地対空ミサイル、対戦車ミサイルなどが含まれる。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は米国に感謝し、「戦況を安定させ主導権を奪い返すチャンスを得た」と述べた。

 焦点は、支援再開がウクライナの新たな反転攻勢を後押しできるかどうかだろう。

 昨年6月からの反転攻勢は、ロシア軍の強固な防衛線に阻まれ失速した。領内に居座る部隊を地上戦で押し戻すのは、相当な困難が伴う。ロシア軍は、5月末か6月初めにも大規模攻勢を仕掛けるともされる。

 ウクライナが十分な兵士を動員できるかも、成功の鍵を握る。少なくとも20万人の増員が必要といわれ、ゼレンスキー氏は、動員強化法案に署名した。

 犠牲者をこれ以上増やさない唯一の方法は、停戦を実現させることだと肝に銘じる必要がある。

 国際社会は武器支援にとどまらず、2年以上に及ぶ戦闘の終結に向けた外交努力にも力を注がねばならない。