1947年5月3日に憲法が施行され、77年となった。ウクライナやパレスチナなど世界各地で戦火が広がる中で迎えた憲法記念日だ。

 アジアでも軍事的な緊張感が高まっている。それでも私たちは戦争をしないで暮らしてこられた。その大きな理由に憲法があることは明らかだ。

 平和憲法の意義や果たしてきた役割を改めて胸に刻み、世界の平和のためにできることを考えていきたい。

 ◆絶えない世界の戦火

 ロシアがウクライナに侵攻して2年2カ月が過ぎた。ウクライナ国内はロシア軍の攻撃にさらされ、亡くなった人は民間人だけで1万人を超えている。

 侵攻が長期化する中、昨年10月には中東のパレスチナ自治区ガザで新たな争いの火の手が上がった。ガザを実効支配するイスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘だ。

 ハマスがイスラエルを奇襲し市民を殺害、拉致したことがきっかけだが、その後のイスラエルの反撃は度を越している。

 難民キャンプや病院、学校への攻撃が繰り返されている。ガザ保健当局によると、死者は3万4千人を超える。飢餓も引き起こし、人道危機は深刻だ。

 ウクライナとガザで起きている惨劇を思うと、胸が引き裂かれる思いがする。

 先の大戦では日本も米軍による激しい攻撃にさらされた。国内の主要な都市は焼夷(しょうい)弾などによる無差別爆撃を受け、広島と長崎には原爆が投下された。

 県内でも長岡市が大規模な空襲を受けた。街は一面焼け野原となり、1480人余りの尊い命が失われた。

 多くの犠牲者を出し、アジア諸国にも甚大な惨禍をもたらした戦争への反省から生まれたのが、日本国憲法だ。

 軍部などの暴走を許した国のありようを抜本から改め、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を三大原則とした。9条では戦争放棄をうたった。

 現在のウクライナやガザの惨状を見るとき、平和憲法を持つ日本だからこそできることはないかと考える。

 米国に追従するだけでなく、よって立つ憲法の理念に沿って国際平和を求める動きを強めるべきではないか。

 ◆高まらぬ国民的議論

 岸田文雄首相は折に触れ、憲法改正への意欲を示す。

 3月の自民党大会では、「任期中に実現する思いで条文案の具体化を進め、党派を超えた議論を加速する」と述べ、党総裁任期である9月までの憲法改正を目指す意向を重ねて示した。

 憲法改正を党是とする自民党は2012年に憲法改正草案を策定した。

 18年には、9条への自衛隊明記、緊急事態条項の新設、参院選「合区」解消、教育充実について盛り込んだ党改憲案4項目をまとめている。

 集団的自衛権行使を容認する安全保障関連法を成立させた安倍政権に続くように、岸田政権は安保関連3文書を閣議決定し、他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)保有に踏み切った。

 防衛費の増額を決定し、防衛装備移転三原則の運用指針を改定して殺傷能力のある武器輸出を決めた。

 中国や北朝鮮が軍事的な動きを強めていることが背景にあるのだろう。

 だが、9条に関わる安保政策の転換を十分な国会論議をせず、国民不在のまま決めてきた手法には疑問がある。

 共同通信社の世論調査では、憲法改正の国会議論に関し「急ぐ必要がある」は33%にとどまり、「急ぐ必要がない」が65%に上った。

 改憲の必要性については「ある」が75%、「ない」が23%となったが、9条改正の必要性については「ある」51%、「ない」46%と賛否が拮抗(きっこう)した。

 これらの結果から分かるのは国民は拙速な改憲の動きを望んでおらず、改憲の機運も十分ではないということだ。

 憲法には、国家権力に縛りをかける役割がある。

 憲法に従って政治を行うことは当たり前であり、解釈を権力者に都合よく変更したり、形骸化させたりするようなことは許されない。

 国民の十分な議論を踏まえず、変更を加えることはあってはならない。

 77回目の憲法記念日に、このことを確認しておきたい。