木造の建屋が取り囲む空間を、ツバメがせわしなく飛び交っていた。数十羽はいようか。機敏に急旋回するもの。手が届きそうな距離で羽を休めるもの。営巣の時季を迎えた快活な生命力に圧倒された
▼野鳥園ではない。阿賀町の三川観光きのこ園である。間口が大きく野外に開かれた売店を見上げると、いくつもの巣が見える。夏場にかけて20年以上も続く光景だと聞けば、もはや風物詩である
▼人が出入りする売店なので、天敵のカラスは寄りつきにくい。園主の杉崎克彦さん(76)は「以前よりも人慣れしてきている」と話す。幸せを運ぶとされるツバメは害虫を駆除する益鳥でもあるが、ふんもする。客が行き交う商業スペースだからと閉め出すこともなく、共生している園側のおおらかさが心を軽くする
▼それは共生とは程遠いニュースに日々接しているから。埼玉県に住むクルド人へのヘイトが先鋭化しているという。クルド人が関わった一部事件などを受け、民族をひとくくりにして危険視する排斥行動が広がった
▼交流サイト(SNS)には真偽不明な情報とともに「中東へ帰れ」「追い出せ」などと憎悪をあおる書き込みが絶えない。臆測で差別的な発言をした国会議員もいた
▼在日コリアンへの聞くに堪えないヘイトスピーチは以前からあった。ロシアのウクライナ侵攻後は国内のロシア人も標的になった。一方的な決めつけに扇動されるように加担してしまう構図もある。SNSが助長している現実を心に留めておきたい。