ノーベル賞作家、トーマス・マンの「ブッデンブローク家の人々」はドイツで4代続く商家の没落を描いた長編小説だ。3代目のトーマスは好人物だが、傾いた経営を立て直せずに無念の死を遂げる

▼この作品を読むと、商売の世界で現状維持は衰退であることを強く感じる。勝敗や順位を巡って激しくしのぎを削るスポーツの世界も同じだろう

▼サッカーJ1アルビレックス新潟のJ2降格が決まった。2017年の降格決定前はJ1に14年間在籍したが、今回はわずか3年での陥落だ。昨季は最終節でなんとか残留を決めながら、主力の流出を止められなかった。前半戦でつまずき監督交代に踏み切ったものの、さらに白星に見放された。要因を挙げれば切りがない

▼だが一番の理由はフロントの降格への危機感が足りず、強化に向けた投資が不十分だったことだろう。地方のクラブが国内最高峰のリーグにとどまることは容易ではない。それでも、アルビにとって来年はクラブ創設30年、Jリーグが秋春制に移行する重要な節目である。石にかじりついてでもJ1に残らなければならなかった

▼先の小説ではトーマスの妹のトーニが、救いをもたらす。2度の不幸な結婚を経て「人生はわたしたちの信仰をくだいてしまう」と嘆きながら、希望を失うことはない

▼前回、アルビのJ1復帰に5年かかった。今度はいつJ1に戻ってこられるのか。J2のレベルは上がっており、いばらの道が待ち構える。それでも諦めるわけにはいかない。