県民を代表する県議会議員、市町村を率いる首長の間でさえ、議論が深まっているとは言えない現状を示している。

 政府は原発再稼働に前のめりな姿勢を示すが、それでは県民の不安や不信は払拭できない。課題を丁寧に解消し、冷静に議論を重ねる必要がある。

 新潟日報社は、東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に関し、県議、本県関係の国会議員、市町村長へのアンケートを実施した。

 再稼働の是非や、政府の同意要請などについて、それぞれの考えを聞いた。

 ◆根強い避難への懸念

 東電による再稼働の是非について、県議は議長を除く52人のうち半数超の28人が「認めない」とし、「認める」とした3人を大きく上回った。

 県政与党の自民党で32人のうち4割近い12人が認めないとしたことは、驚きに値する。

 認めないとの回答で共通するのは、避難を巡る課題が解決していないとの理由だ。

 能登半島地震で明らかになった、自然災害と原発事故が重なる複合災害時の避難に対する懸念が強い。

 国会議員では全14人のうち、再稼働を「認める」としたのは自民党9人のうち2人だけで、自民は5人が「判断できない」と回答した。立憲民主党は5人全員が「認めない」とした。

 政府が早期の再稼働を目指しているにもかかわらず、与党内でも慎重な国会議員が多いことは注目される。判断できない背景には、県などが国に要望した避難道路整備への回答が得られていないことなどがある。

 首長では、全30市町村のうち原発が立地する柏崎市と刈羽村に加え、湯沢町の計3人が再稼働に賛成した一方、7割を超える22人は「判断できない」として賛否を示さなかった。

 判断をためらう首長が多いことも、議論が深まっていないことの表れといえるだろう。

 アンケートは、政府が3月に県と柏崎市、刈羽村に行った再稼働への地元同意要請のタイミングについても聞いた。

 これには県議の86・5%、首長の60%が「早い」と答えた。

 大半が「早い」と受け止めたのは、能登半島地震を受けて、原子力規制委員会が、屋内退避の運用を含む原子力災害対策指針の見直しに着手したばかりであることが影響している。

 柏崎刈羽原発の安全対策を確認する県技術委員会が議論を継続していることもある。

 課題解決の方向性が見えない段階で、再稼働を急ぐような政府の要請が、安全優先を求める地元を軽んじるように映っていることは否定できない。

 深刻な液状化被害が起き、県民が災害への不安を抱える中での要請は配慮を欠いた。

 ◆政策転換評価できず

 東電福島第1原発事故後、政府は原発の依存度を可能な限り低減するとしていたが、岸田文雄首相は国民的な議論もないままその看板を下ろし、政策を大転換して原発の「最大限活用」を掲げた。

 政府は本年度中にエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」を改定する方針で、原子力の位置付けをどこまで踏み込むかが焦点になる。

 改定内容によっては、再稼働への圧力が一層強まることが予想される。

 県議アンケートでは、岸田政権の原子力政策を「あまり評価できない」を含め8割が評価せず、県や立地自治体への向き合い方も「あまり評価できない」を含め94・2%が否定した。あぜんとする評価の低さだ。

 花角英世知事は県議アンケートを受けて、県議の意思が再稼働の是非を判断する際の「重要な要素になる」との認識を改めて示した。

 知事は県議や市町村長の率直な意見や、さまざまな立場の声に耳を傾け、県民の思いを適切にくみ取ってもらいたい。

 4月に、判断材料の一つになるとしてきた立地に伴う県全体の経済効果に関する県独自調査の結果を公表した際には、判断に向けて「まだまだ得られる材料が出てくる」と述べた。

 最終判断はまだ先とみられるが、多様な判断材料を踏まえ、どう結論付けるか、知事には丁寧な説明が求められる。

 原発立地地域は、事故が起きれば古里を失いかねないリスクを常に内包する。そうした立地地域の思いを、電力消費地に正しく理解してもらうことも、エネルギー政策として不可欠だ。