東アジアの安定のため、日中韓3カ国が果たす役割は大きい。対立や溝があるからこそ互いを理解するための対話を続け、協力体制を強化していく必要がある。

 岸田文雄首相と中国の李強首相、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領による日中韓首脳会談が韓国・ソウルで開かれた。3カ国の首脳会談は2019年12月以来、4年半ぶりだ。

 会談は年1回の開催を目指しているが、歴史問題や安全保障などを巡る関係の悪化でたびたび中断してきた。

 日韓と中国は安全保障分野などで対立するものの、近隣国同士で経済的な結び付きは強く、相互依存の関係にある。関係が悪くなりがちな3カ国が首脳会談を再開させたことは評価したい。

 今回の会談が実現した背景には日韓関係の改善のほか、欧米から工業製品の「過剰生産」が批判されるなど苦しい立場にある中国の歩み寄りがあるとされる。

 それぞれ思惑はあろうが、北朝鮮の核・ミサイル開発や台湾情勢などで東アジアの緊張が高まる中、3首脳が顔を合わせて対話をする意義は大きい。

 会談では、3カ国が幅広い分野で協力を進める決意を共有した。

 19年から中断している日中韓自由貿易協定(FTA)締結交渉の加速でも一致した。

 首脳会談と閣僚級会合を定期的に開催することで3カ国協力の「制度化」に努めると、共同宣言には明記した。

 一方、首脳会談では深い溝も改めて浮き彫りとなった。

 共同宣言では北朝鮮の非核化と拉致問題について「それぞれの立場を強調した」と記しただけで、19年の首脳会談成果文書で「完全な非核化にコミット(関与)している」とした記述は消えた。

 北朝鮮に近い中国の意向が反映されたとみられている。

 しかし北朝鮮は会談当日、偵察衛星を搭載したロケットを発射し、失敗した。弾道ミサイル技術を使用した発射は国連安全保障理事会決議に違反する。

 中国も断固反対する姿勢を明確に示すべきだ。

 日中韓首脳会談に先立つ日中首脳会談では、中国による台湾周辺での軍事演習を巡り、岸田首相が台湾海峡の安定化を促したのに対し、李首相は「中国の核心利益の核心」と述べ、応酬となった。

 東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を受けた日本産水産物の輸入停止措置や、相次ぐ邦人拘束などについても解決を迫ったが、中国側は要求をかわし続けた。

 解決には程遠い現実を見せつけた格好で、改めて粘り強い対話、交渉の必要性を感じさせた。

 ウクライナやパレスチナでは争いが続いている。日中韓は東アジアだけでなく、世界の平和に尽くす役割も求められる。日本の指導力も問われよう。