農業は全ての人の生活と命を支える国の基幹となるものだ。変化する世界情勢を踏まえ、担い手を支える姿勢を明確にし、農業の持続可能性を高めてもらいたい。

 改正食料・農業・農村基本法が成立した。「農政の憲法」と言われる基本法は、施行から四半世紀を経て、初めて改正された。

 改正基本法は、食料安全保障の確保を新たな基本理念に位置付けた。食料安保を「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ国民一人一人がこれを入手できる状態」と定義した。

 紛争に伴う世界的な食料需給の変動や地球温暖化、日本の人口減少といった課題が顕在化する中で、国民の食料安保を明記したことは意義深い。

 今後は法の理念をどう具体化するかが重要になる。食料安保の確保策が問われる。

 改正基本法は、食料の持続的な供給に向け、生産コストの価格転嫁を後押しすると打ち出した。平時から生産基盤を強化する。

 肥料や燃料などのコスト上昇分を価格に転嫁し切れていない生産者は多いとみられる。

 価格転嫁が進まなければ、生産を継続できず、廃業を余儀なくされる農家が出かねない。

 全国の農業人口は今後20年程度で約4分の1まで減るという国の推計もある。離農が加速度的に進む状況は深刻で、国土保全の観点からも、農地をどう守っていくか考えねばならない。

 適正な価格形成の仕組みをつくるため、政府は法制化も視野に入れる。価格転嫁は消費者にとって家計の負担が大きいが、生産者なくして食料安保は成り立たない。現場を支える知恵が必要だ。

 食料の安定供給について、改正基本法は、国内の農業生産の増大を基本としつつ、輸入と備蓄で対応するとしている。

 気がかりなのは、条文に水田の畑地化が明記されたことだ。コメの国内需要が減っていることが背景にあるが、本県農業に影響が大きい。国会審議ではコメの生産削減につながるとして、野党が「食料安保に逆行する」と批判した。

 識者からは「コメの輸出を増やす体制をつくり、いざというときに国内に提供することが合理的だ」と指摘する声も聞かれる。

 強い農業を構築する上で、コメの生産性向上は不可欠だ。

 これまでの基本法が目標としてきた食料自給率の向上は、改正法では前面に出さず、食料自給率のほか肥料や飼料といった農業資材の確保などを念頭に、複数の目標を設定するとした。

 だが日本の食料自給率はカロリーベースで2022年度に38%と低水準が続く。6割以上を輸入に頼る現状は安保上、心もとない。

 目標を複数設定するとしても、自給率向上の目標を、食料安保の基軸にすることが重要だ。