国際社会にも大きな影響を及ぼす両候補の再対決だが、不安ばかりが膨らんでいる。米国の分断をこれ以上深めないよう、両者の冷静な論戦を望みたい。
米大統領選に向けた第1回候補者討論会が行われ、民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領が論戦を繰り広げた。両候補の直接対決は、2020年の前回大統領選以来となる。
民主、共和両党が大統領候補を正式指名する前に討論会が行われるのは異例のことだ。激戦州でトランプ氏が若干優勢と伝わる中で、早期挽回を図りたいバイデン陣営と、支持率を上げたいトランプ陣営の思惑が一致した。
相手の発言を妨害して罵倒し、「史上最悪」と言われた4年前の討論会を踏まえ、今回は相手の発言中はマイクの音を切って対応したものの、やはり非難の応酬となり、議論は深まらなかった。
討論会では、78歳のトランプ氏が威勢よく話すのに比べ、81歳で高齢不安がつきまとうバイデン氏は言葉に詰まる場面もあり、明らかに精彩を欠いた。
トランプ氏に勝てるのはバイデン氏だけだとの声も民主党内にはあるが、討論会後の世論調査では出馬すべきではないと考える民主党有権者が46%に上った。
バイデン氏が高齢不安を払拭できなければ、このまま苦戦が続くはずだ。9月の第2回討論会に向けた挽回が急務だ。
一方のトランプ氏は、5月末に不倫口止めに絡む事件で米大統領経験者として初の有罪評決を受けたが、討論では評決は政敵の追い落としを図ったものだと口汚く非難した。分断をあおるトランプ氏得意の戦法とみていいだろう。
だが選挙戦で求められるのは、経済や人工妊娠中絶、不法移民など国を二分する重要課題を解決に導くための論戦だ。分断や対立を深めることではない。
心配されるのは、トランプ氏が起訴されている21年の議会襲撃事件を巡り、米連邦最高裁が在任中の公務は刑事責任の免責特権が適用されると判断し、連邦地裁に差し戻したことの影響だ。
議会襲撃という民主主義の根幹を揺るがした事件は、トランプ氏が起訴された計四つの事件で最も重大だとみられている。
差し戻し審の初公判は大統領選後となる見通しになり、機密文書持ち出しなど他の公判にも影響を与える可能性がある。最高裁の判断がトランプ氏の追い風になるのは間違いない。
トランプ氏が返り咲けば、自ら指名する司法長官に起訴を取り下げさせるとの見方も出ている。
最高裁判断に反対したリベラル派の判事は「大統領が法の上に立つ王様になってしまった」と述べた。その懸念は理解できる。
権力者の行き過ぎた行動を、法で縛れなくなるのは危うい。
