不祥事が次から次へと明らかになる深刻な事態だ。予算や役割が肥大化する中で何が起きているのか。組織の風土や体質にも切り込んで真相を解明しなければ、国民の信頼は取り戻せない。
海上自衛隊で、防衛産業との癒着疑惑や特定秘密のずさんな取り扱いなど、不祥事が相次いで発覚している。
癒着疑惑は潜水艦の修理契約に絡み、川崎重工業との間で明らかになった。川重が取引先企業との架空取引で裏金を捻出し、潜水艦の乗員に金品や物品などを提供した疑いが浮上した。
裏金の捻出は遅くとも6年前に始まり、額は少なくとも十数億円に上るとみられる。
潜水艦は機密性や専門性が高く、「秘密の塊」ともいわれる。製造しているのは川重と三菱重工業だけで、定期的な検査や修理なども基本的には2社が担う。
新規企業が入り込む余地が事実上ないという特殊な環境下で癒着が常態化していたのではないか。
競争原理が働かない中で、防衛費の不適切な使い方につながるようなことはなかったか。
防衛省は「特別防衛監察」を行う方針だ。徹底的な調査で実態を明らかにしてもらいたい。
特定秘密を巡っては今年4月、護衛艦「いなづま」で、必要な適性評価を受けていない隊員が特定秘密を取り扱う任務に当たっていたことが分かっている。
その後の調査で、他の複数の護衛艦などでも不適切な運用が行われている疑いが今回新たに判明した。海自トップの海上幕僚長は引責辞任する意向を示したという。
海自では2022年、1等海佐がOBの元海将に特定秘密を漏えいし懲戒免職となっている。その経緯がありながら、特定秘密に関するずさんな取り扱いをしていたとは驚く。認識の甘さ、規律の緩みがあったと言わざるを得ない。
海自を巡っては他にも、隊員が潜水手当を不正に受け取っていた疑いも明らかになっている。
海自に限らず、統合幕僚監部などでも無資格の隊員が特定秘密を扱ったケースが確認されたほか、防衛省内部部局ではパワハラ行為があったことが判明した。
政府は23年度から5年間で防衛費の総額を43兆円に増やす計画だ。一方、反撃能力(敵基地攻撃能力)保有や多国間連携などで自衛隊の活動範囲は拡大している。
急速な拡大方針が組織のきしみ、ひずみを招き、自衛隊、防衛省全体に広がる不祥事につながっている可能性は否定できない。
23年度予算に計上した防衛費のうち使い残した不用額が1300億円に上ったことも、組織の対応力が追い付いていない実態を表したものといえる。
抜本的な組織体制の見直しを行い、厳正な規律を保持する組織に再生させなければならない。
