まもなくパリ五輪が開幕するフランスの政治情勢が混迷を深めている。社会の分極化が一段と強まり、影響が広がる懸念もある。

 フランス国民議会(下院)の総選挙が行われ、決選投票で左派連合が事前予測を覆して勝利した。

 マクロン大統領の中道与党連合が2位になり、優勢とされていた極右政党、国民連合(RN)は失速して第3勢力にとどまった。

 総選挙は、6月に行われた欧州連合(EU)欧州議会選挙でEUの政策に批判的な極右や右派が伸長し、与党が大敗したことを受け、マクロン氏が「信任を得るため」として下院を電撃的に解散したことに端を発したものだった。

 マクロン氏は総選挙で賭けに出た形だが、成功とは言い難い。

 年金制度改革を強行するなどしてきたマクロン氏への不満票と、極右政権誕生を避けたい人々の票が左派連合を押し上げたからだ。

 決選投票の結果、反移民、反EUを唱えるRNが権力を掌握する事態を避けられたことで、EU内には安堵(あんど)が広がっている。

 だが、フランス国内は混乱が収まったと言える状況ではない。

 どの勢力も過半数に届かなかった上、拮抗(きっこう)する形になったためだ。右派と左派が中道の与党を囲む構図が一段と強まった。

 議会内は多数派形成の難航が予想されている。分断がさらに進み、法案を可決できなくなれば、議会は機能不全に陥る恐れがある。

 左派連合と与党連合は対立し、政策的には正反対の方向を向いている。今後、政策決定が困難になれば、影響はフランスがけん引するEUにも広がりかねない。

 注目されるのは、マクロン氏がどんな内閣を樹立していくかだ。

 マクロン氏は「総選挙ではどの勢力も勝てなかった」と主張し、自身の与党連合、右派政党の共和党、左派連合のうち極左政党「不屈のフランス」を除いた政党での穏健な大連立内閣を望んでいる。

 一方、第1勢力となった左派連合は、自らが総選挙で勝利したと主張し、左派連合から首相を選出するよう求めている。

 16日には与党連合の敗北を受けたアタル首相の辞任が認められたが、次期首相の見通しはない。

 アタル氏が暫定内閣の長として職務を続け、26日開幕のパリ五輪などを担当するものの、暫定内閣は五輪が閉幕する8月中旬まで続く可能性があるという。

 国を挙げた大行事のタイミングで、国際社会に政局の不安定さを示す結果となったのは皮肉だ。

 フランスはEU第2の経済大国で、核兵器保有国でもある。国連安全保障理事会の常任理事国でもあり、これまで国際社会に大きな影響力を示してきた。

 マクロン氏の政治的な弱体化は避けられそうにないが、国際社会へ波紋を広げず、混迷を脱していく努力が必要だ。