ご近所の庭でキョウチクトウが咲いている。桃色の花が真夏の日差しに照り映えて輝く。漢字で書くと「夾竹桃」。名の由来は葉が竹に、花が桃に似ているからという

▼広島市の「市の花」としても知られる。原爆投下で75年間は草木も生えないといわれた焦土にいち早く花を咲かせ、市民に力を与えたそうだ。被爆からきょうで79年。この間ずっと、美しい花は市内を彩ってきたのだろう

▼〈戦争は夾竹桃が咲いてゐる〉鈴木章和。以前の本紙「季のうた」が紹介していた。以下のような解説が添えてあった。「戦争は」でいったん区切り、戦争とは何かと考えさせる。「夾竹桃が」以下は情景を提示する-。美しい花を前に戦争の不条理を思う

▼いま核兵器の廃絶は進むどころか、世界にはその使用をちらつかせる指導者すらいる。実戦配備を視野にミサイル開発に突き進む国もある。そうした状況を理由に挙げ、わが国もまた攻撃力を高めている。時計の針は逆方向に進むばかりだ

▼キョウチクトウは生命力が強く、乾燥や大気汚染にも耐えるので、道路脇の緑化にもよく用いられる。排ガスを浴び続けてもめげずに咲く姿に、逆境に耐える力をもらいたい

▼毒を持つ植物でもあるという。ひょっとして人間の出した毒を取り込み、世界を浄化しようとしているのか。あらぬ想像をしてみる。秋にかけて、息長く花を咲かせ続ける木だ。核兵器廃絶の展望はなかなか描けないけれど、歩みを止めてはならないと言っているのかもしれない。

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