新潟市中央区古町地区の地下商店街「西堀ローサ」が多くの老若男女でにぎわっていたバブル経済全盛期の30年前、鮮やかなドレスに身を包み、地下の広場でピアノを弾く人形がいたことを覚えていますか?

 その名も「ロザーナ」。1日9回、ショパンの「ノクターン」を“奏でて”いました。幼い頃に親に連れられて行ったローサで、真っ白い顔で表情を変えず、青いピアノの前に座り、鍵盤の上の手を一定のリズムで動かし続ける姿は、愛らしいというよりも不気味、まさにホラーのようでした。

西堀ローサの顔として鎮座していたロザーナ=2006年

 バブルを謳歌した上司によると、携帯電話もない時代、恋人や友人たちの待ち合わせスポットとして重宝したのだとか。しかし、そんなロザーナも2007年、ローサから忽然と姿を消しました。

 当初、「ローサ夢物語」とまで呼ばれた機械人形はどこへ消えたのか? 行方を追ってみました!

◆古町の期待を背負いデビュー

 最初にロザーナの説明を少々。西堀ローサの中央、「出逢いの広場」に鎮座し、本物の人間そっくりにつくられた名物人形。ピアノを弾くといっても実際にロザーナが弾くわけではなく、ロザーナの“弾く振り“に合わせておもちゃのピアノから音が出てくる仕組みです。

 そんなロザーナのすみかであった西堀ローサは、1976年に建設費約68億円をかけてオープンしました。運営する第三セクター「新潟地下開発」の資本金は3億3千万円だったので、すごい投資です!

 ローサの一時代を築いたロザーナはいつからローサにいたのか、なぜいたのか? そして、なぜ消えたのか?まずは運営会社の「新潟地下開発」に突撃しました!

1976年の西堀ローサオープン時に並ぶ客の列(「西堀ローサ二十年」より)

 「ピアノを弾く人形? そういえばあったね~」。新潟市役所OBで、現在は新潟地下開発で総務部長を務める中川高男さん(60)は懐かしそうに振り返りました。

 中川さんが見せてくれた資料によると、ロザーナは1992年のローサのリニューアルを機に設置されました。

 しかし、30年以上前になる設置の経緯などは分からないと中川さん。「ローサはバブル時代の1991年に売り上げのピークを迎えました。ただ、その前から人や物の流れが古町地区から郊外店にシフトしてきた。もう一度飛躍したいという思いをロザーナに託したのでは」と推理しました。

にぎわう西堀ローサ=1985年

◆おしゃれも大事

 運営会社の幹部も詳しいことが分からない謎の機械人形-。困惑する私に貴重な証言を寄せてくれたのが、1993年から新潟地下開発で働く社員の野澤陽子さんでした。

 「ロザーナがピアノを弾き始めると子どもたちが集まっていた」と野澤さん。さらに、ロザーナ専用の衣装や髪飾りが数種類あり、衣装は特注だったとか。「かつてローサ内にあったインフォメーションセンターの女性が定期的に着替えさせていたんです」と興味深い話も聞かせてくれました。

 ロザーナと長く触れ合ってきただけあって、「たしかロザーナの脇にあるピンクの箱は演奏に合わせて自動で開閉し、中からネズミの人形が出てきたと思います」と記憶も鮮明です。

手前のピンクの箱からはネズミが出ていたという(「西堀ローサ二十年」より)

 ただ、そんな野澤さんもロザーナがなぜいたか、どこにいったのか詳しいことは分からないと首をひねります。

 取材開始早々、暗雲が立ちこめ始めたロザーナ追跡。しかし、中川さんが手渡してくれた一冊の本が突破口を開きます!

 西堀ローサのオープン20年を記念して1996年に新潟地下開発から刊行された「西堀ローサ二十年」。そこに綴られていたのはバブル狂騒曲ともいえる驚くべきエピソードの数々でした。

中編後編に続く)