自民党総裁選は空前の乱戦模様だ。本紙客員論説委員の後藤謙次さんのコラム「永田町天地人」が興味深い指摘をしていた。大本命がいない上に「候補者全員に有能な側近が見えないこと」も、この総裁選の隠れた一面という
▼政治家に限らず、優れたリーダーには敏腕の側近がいるものだろう。後藤さんが挙げたのは、田中角栄元首相のケースだ。田中内閣で官房長官を務めた二階堂進元副総裁らが脇を固め、田中派秘書軍団の行動力は群を抜いた
▼戦国時代史研究の第一人者で静岡大名誉教授の小和田哲男さんは、著書で側近や補佐役の大切さに触れている。戦国武将で名補佐役と言えば、現在の南魚沼市に生まれた直江兼続だ。兼続なしでは主家である上杉家は生き残れなかったかもしれない
▼天下人の豊臣秀吉を支えたのが弟の秀長だ。彼の生前、豊臣政権は順調に成長したが、世を去った途端に千利休切腹や朝鮮出兵、おいの秀次切腹など政権の屋台骨を揺るがす事態が相次ぎ、政権の終焉(しゅうえん)につながった(「名参謀 直江兼続」)
▼現代のリーダーはどうだろう。疑惑告発文書問題で批判を浴びる斎藤元彦兵庫県知事や、高卒者に対する不適切発言で市議会の一部から不信任の声が上がる中川幹太上越市長には、言動をいさめる側近はいなかったのか
▼自民党総裁選や立憲民主党代表選では、候補者を支える側近にも注目してみたい。側近の有無や顔ぶれが、候補者の実像を表しているかもしれない。選挙を眺める視点が一つ増えた。