実現できるか見越せない難工事だ。反対する県民の声を軽んじ、生態系にも影響を与えるような埋め立て工事に合理性はあるのか。やはり疑問を禁じ得ない。
沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、防衛省が海底に軟弱地盤が広がる大浦湾側での護岸造成に向け、金属製くいの打ち込みを始めた。
既に予備的な作業を始めていたが、本格工事に着手した形になる。埋め立て区域を囲む護岸を造り、土砂を投入する。完了は2033年4月ごろの見込みという。
ネックはマヨネーズに例えられる軟弱地盤の改良だ。
最深部で海面下約90メートルに達する軟弱地盤に、くい約7万本を打ち込む。深度、規模とも前例がなく、順調に進むか不透明だ。
完成しても地盤沈下や地震で滑走路が使えなくなる恐れが指摘され、そもそも適地には程遠い。
埋め立て計画全体で約2020万立方メートルの土砂量が必要だが、現場では既に、投入する土砂が不足しつつある。
政府は当初、不足分の採取場所として沖縄本島南部を候補にしたが、沖縄戦の激戦地で、遺骨が交じった土砂が使われる恐れがあると反発され、鹿児島県・奄美大島からの調達を提示した。
ただ沖縄県は、特定外来生物の侵入を防ぐため、県外からの土砂搬入を条例で規制している。
政府は、土砂を洗浄することで搬入可能と判断したというが、コストに跳ね返ることは必至だ。
防衛省が工事を押し進める背景には、移設阻止を最大の公約とする玉城デニー知事の求心力低下を見込んでいることがある。6月の県議選で玉城氏の支持勢力が過半数を割ったからだ。
とはいえ、工事に対する県民の理解が進んだとは言い難い。
移設に抗議していた人らが6月に土砂搬出のダンプカーにひかれ死傷した。県は事故の原因究明や再発防止が済むまで作業を再開しないよう求めたが、沖縄防衛局は一方的な通知で工事を再開した。
「事故原因の説明もなく、市民をばかにしている」と憤る声が市民から聞こえるのは当然だ。
大浦湾側には貴重なサンゴなども多く生息しており、環境への影響にも懸念が残る。
防衛局が行ったサンゴの移植では多くの個体が死んだことが環境保護団体の調査で指摘され、移植された絶滅危惧種のオキナワハマサンゴもほぼ死滅した。
生物多様性の保全を図れない計画では、妥当とは言えない。
中国が海洋進出を強めるなど安全保障環境が変わる中で、普天間より滑走路が短い辺野古は、使い勝手が悪いと米軍からも不満が漏れ、軍事的な合理性にも欠ける。
沖縄の基地負担軽減をどう図るか。政府は辺野古に固執せず、対策を根本的に見直すべきだ。
