戦火は収まるどころか、ますます激しくなっている。犠牲者も増え続けている。両国が一刻も早く和平交渉に応じるように国際社会は導かねばならない。

 ロシアがウクライナに侵攻し、2年半が過ぎた。ウクライナ軍の戦死者は3万人、民間人の死者は1万人をそれぞれ超えた。

 3日には中部ポルタワ市へ弾道ミサイルによる攻撃があり、50人以上が亡くなった。1度の攻撃では今年最も多い犠牲者だという。

 一般市民を巻き込んだロシア軍の無差別攻撃による惨状は、目を覆うばかりだ。

 注視すべきは、ウクライナ軍が先月、ロシア西部クルスク州への越境攻撃を始めたことだ。ロシアにとっては第2次大戦以降、初めて他国軍に領土を侵されたことになる。

 ウクライナ軍はこれまでに東京都の約半分にあたる約1300平方キロを制圧した。ロシア側も防御を固め、戦況は膠着(こうちゃく)状態になっているもようだ。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍の部隊をロシア領の防衛に回し分散させることや、主導権を握る形で和平交渉に持ち込むなどの狙いがあるとされる。

 越境攻撃の成否は、長引く戦闘の結末を大きく左右するだろう。

 ロシアのプーチン大統領は、「この挑発は失敗していると確信している」と述べた。越境攻撃の目的はウクライナ東部のドンバス地方でロシア軍を止めることだったが、進軍は順調との認識だ。

 ロシア軍が今月中旬までに、ウクライナ東部の要衝ポクロウシクに到達するとの見方も出ている。

 ゼレンスキー氏への支持率は5月の世論調査で59%と高いが、戦火がやむ見通しがない中で、低下傾向は続いている。

 ゼレンスキー氏は求心力を高める狙いで大規模な内閣改造の実施を表明したが、正念場を迎えたともいえよう。

 一方、プーチン氏は、国際刑事裁判所(ICC)が侵攻に絡む戦争犯罪容疑で逮捕状を発付後、初めてICC加盟国であるモンゴルを訪問した。

 加盟国は拘束義務があるが、プーチン氏は拘束されずに帰国した。ICCは専属執行機関がなく、「法の支配」の実現には加盟国の協力が不可欠だ。しかし、石油のほぼ全量をロシアから輸入しているモンゴルにとっては、輸入停止は国の存亡に関わる。

 法に基づく国際秩序を保つ難しさが浮き彫りになった。ICC最大の分担金拠出国である日本は、実効性のある方策を国際社会と模索しなければならない。