次の首相を事実上、決める選挙だ。物価高や地方の疲弊、厳しさを増す安全保障環境、政治改革など課題は山積している。イメージづくりに偏るのではなく、地に足の着いた具体的な政策論争が展開される総裁選としてもらいたい。

 退陣表明した岸田文雄首相の後任を選ぶ自民党総裁選が12日に告示され、過去最多の9人が立候補を届け出た。

 立候補したのは高市早苗経済安全保障担当相、小林鷹之前経済安保相、林芳正官房長官、小泉進次郎元環境相、上川陽子外相、加藤勝信元官房長官、河野太郎デジタル相、石破茂元幹事長、茂木敏充幹事長の9人だ。

 これまで最多だった5人を大きく上回った。派閥裏金事件を受け、6派閥のうち麻生派を除く5派閥が解散を決め、派閥の締め付けが弱まったことが多くの出馬につながった。

 9人のうち女性が2人だけというのは残念だが、43歳から71歳まで多様な顔触れとなったことは、派閥解消の効果と言ってよい。派閥が主導しない総裁選はどう展開するか。復活する場面はあるか。注目していきたい。

 裏金事件で党の信頼は地に落ちている。9人に問われるのはまず「政治とカネ」の問題を払拭する実効性ある改革案を示すことだ。

 12日の演説会では、一部の候補が政策活動費の廃止や政党交付金の使途見直しなどを訴えた。

 カネの問題が解消されない限り信頼回復はできず、信頼がなければ政権は担えない。これを肝に銘じ、カネのかからない政治の実現に向けた論戦を交わしてほしい。

 この国が抱える課題は多い。

 とりわけ深刻なのは、人口減少が続く地方の現状だ。地方の活力低下は国力の低下につながる。

 演説会でも多くの候補が地方活性化を訴えた。具体的にどう人口減に歯止めをかけ、どう活性化を図るのか。もっと具体策やアイデアを出し合ってもらいたい。

 岸田内閣は、厳しい安全保障環境を理由に防衛力強化を進めた。原発を最大限活用するとの方針も打ち出した。こうした政策を継承するのかどうか。経済政策や労働政策、社会保障政策などについても議論を深めてほしい。

 忘れてならないのは、北朝鮮による拉致問題への取り組みだ。新潟市で拉致された横田めぐみさんの母早紀江さんは総裁選告示前、「拉致のことを誰も言葉に出さない。絶望的な感じがする」と語った。各候補は胸に刻むべきだ。

 自民党総裁選は27日に投開票される。既に7日に告示された立憲民主党代表選は23日の投開票に向け4人が論戦を繰り広げている。

 早ければ10月に衆院解散・総選挙が行われる見通しだ。

 各党員に限らず広く国民が二つの党首選に目を凝らし、国のあるべき姿や将来像を考えたい。