自分の言葉で丁寧に語ろうとする姿勢はうかがえるが、議論はすれ違いが目立つ。首相は独自のカラーを示し、国民が期待する改革を推進しなくてはならない。
衆参両院の代表質問に続き、石破茂首相にとって初となる予算委員会の論戦が始まった。
少数与党となって迎えた臨時国会は、衆院予算委の委員長ポストを野党が30年ぶりに握り、野党の質疑時間が増えるなど、与野党の力関係が変化する中での論戦だ。
首相は衆院予算委で「与党も野党もなく、民主主義の健全な発展のため謙虚に議論する」とし、丁重な答弁を印象付けた。
自民党派閥裏金事件を受けた政治改革では、年内の政治資金規正法再改正に向けて、「与野党で答えを出すようぜひお願いしたい」と意欲を見せた。
しかし、立憲民主党など野党が求める企業・団体献金の禁止は、「禁止よりも公開が自民の一貫した立場だ」として否定した。
「献金で政策がゆがめられたとの記憶はない」とし、企業・団体献金が「駄目だという前提が誤りだ」と指摘するなど、議論はかみ合わなかった。
自民の政治資金団体「国民政治協会」への企業・団体献金は2023年分が24億円に上り、3年連続で24億円台の高水準だ。
巨額の献金を受けながら、そのあり方を議論の俎上(そじょう)にも載せないのは、国民感覚とずれがある。
裏金事件を巡っては、立民の野田佳彦代表が予算委で、政治資金規正法違反で有罪になった旧安倍派会計責任者の証言と、政治倫理審査会での派閥幹部の発言で、還流再開の経緯が食い違うとして、再調査を要請した。
これに対し首相は「新たな事実が判明したとは認識していない」として拒否した。
証言と幹部発言の食い違いは、検察の捜査などで「事実関係の整理が進んだ」ためというのが首相の主張だ。就任会見では「新たな事実が判明すれば党としての調査が必要だ」としていたが、真相解明に消極的と言うしかない。
選択的夫婦別姓制度の導入でも、首相は就任前、導入に前向きな姿勢を見せていた。しかし予算委で来年の通常国会で結論を出すべきだと求められると、是非を巡る議論に期限を設けることに否定的な考えを示した。
マイナ保険証や、農業政策でも発言の変化を指摘されると、首相は「政策は、総裁がこうだからこうだ、と変わっていくものではない」として取り合わなかった。
党執行部にも苦言を呈するスタンスが人気の源泉だった。首相の座に就いてから党内野党的な持ち味は全く見えない。
首相には国民の目線に立ち、抜本的な政治改革を断行する覚悟を求めたい。ビジョンを示し積極的に課題を解決する姿勢も必要だ。
