自身の詩集が公衆の面前で焼かれる様子を見に行った作家がいた。ナチス支配下のドイツで活動したケストナーは、自由主義的な作風から当局に危険視されていた

▼大胆な行動の裏には「ナチスのやることをよく見届けておこうと思った」との思いがあったらしい。既に欧州では人気作家だったから、当局も軽々に逮捕したり拘束したりできなかったようだ

▼だが作品の発表を禁じられ、本を焼かれた。脅迫されもした。いよいよ命が危ういと心配した周囲に促され、出国したのが1945年3月末。ナチス降伏の1カ月前だった。戦後は西ドイツで生活し、東ドイツにいる両親とは離れ離れになった

▼戦争と独裁がもたらす悲劇を見つめた彼が49年に発表した児童小説が「動物会議」だ。人間の戦争をやめさせようと動物たちは会議を開く。虫に軍服を食い荒らさせてみたが戦争は止まらない。それでも、動物たちは「子どものために!」と知恵を絞る

▼ロシアのウクライナ侵攻で、民間人の被害が連日伝わってくる。痛ましい報道に触れ、本書を思い出した。ケストナーが危惧した戦争が現実となり、多くの子どもが犠牲になっている

▼動物会議でシロクマが訴える。「そういうものはやめなければなりません! なぜなら、やめることができるのだからです! それゆえ、やめる義務があります!」。物語では動物が考え出したある手段により、人間は平和を誓う。動物の助けを借りなくても、人間は戦争をやめられると信じたいのだが。

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