現行の公選法では想定されていなかった事態が次々と起きている。公正、公平な選挙が損なわれてはならない。
悪質なポスターの掲示板利用や交流サイト(SNS)による収益目的の運動に対し、表現の自由や政治活動の自由を考慮した上で、歯止め策の構築を急ぎたい。
自民、立憲民主など与野党は、選挙ポスターに品位保持規定を新設する公選法改正案を衆院に提出し、政治改革特別委員会で審議入りした。今国会で成立させ、6月の東京都議選前の施行を目指す。
与野党がポスター規制に乗り出したのは、昨年7月の都知事選で、掲示板の枠を事実上売買する「掲示板ビジネス」が行われ、候補者と無関係のポスターが大量に張られたからだ。
改正案はポスターへの候補者氏名の明記を義務付けた。特定商品を宣伝した場合は100万円以下の罰金を科すとした。
公費で設ける掲示板を、本来の使われ方に戻すためには、やむを得ない規制だろう。
改正案には、ポスターに品位を損なう内容を記載してはならないことも盛り込まれた。
ただ、何をもって「品位」とし、誰がどのように判断するのか。あまりにも曖昧だ。恣意(しい)的な規制につながる恐れもある。さらなる検討が必要ではないか。
付則には、SNSでの収益目的の選挙運動や、他候補の当選を目的として立候補する「2馬力」行為を念頭に「必要な措置を講じる」と盛り込んだ。
2013年にインターネット選挙が解禁されてから10年以上たち、SNSを使った選挙運動は影響力を増し、悪用も目立つようになっている。
昨年11月の兵庫県知事選では、他の候補者への誹謗(ひぼう)中傷や真偽不明の情報が拡散した。
背景には、動画で注目されるテーマを取り上げて再生回数を増やし、広告収入を得る「アテンションエコノミー」がある。
昨年4月の衆院補選では、政治団体「つばさの党」が、他陣営の街頭演説を拡声器で妨げる様子などを配信し、再生数を稼いだ。
改正案提出に先立ち自民は、選挙期間中のSNS対策の論点を提示した。偽情報に対する罰則強化を明記したものの、表現の自由を制約しかねず、今後の丁寧な議論が欠かせない。
兵庫県知事選は「2馬力」行為も問題となった。候補者間の公平が確保できず、何らかの措置が必要なことは言うまでもない。
特別委が招いた参考人は、具体的にどの行為が駄目なのか不明な点があるとし、「規制するならば、違反事例が分かるようにした方がいい」と指摘した。
与野党は、幅広い意見に耳を傾けながら、実効性のある対策を打ち立ててもらいたい。