派閥幹部の弁明とは食い違いがあり、実態解明に前進したとは言い難い。組織的な裏金づくりの真相を明らかにするには、派閥幹部の証人喚問が必要だ。

 自民党派閥裏金事件を巡り、衆院予算委員会の安住淳委員長らが、旧安倍派会計責任者の松本淳一郎氏を参考人聴取した。

 松本氏は、旧安倍派による政治資金パーティー券の販売ノルマ超過分を還流する慣行が、一度中止されながら再開した経緯について、2022年7月に派閥幹部から再開を求められ、8月の幹部会合で決まったと証言した。

 昨年3月に開かれた国会の政治倫理審査会では、22年8月の幹部会合に出席した幹部4人が、結論は出ていないなどと主張していた。食い違いは鮮明だ。

 松本氏は、還流資金を収支報告書に記載しない旧安倍派の慣行を「どう考えてもおかしい」と幹部に伝えていたとも証言した。政倫審での幹部らの主張を「不思議だなと思った」と表現した。

 東京地裁が昨年9月に、政治資金規正法違反(虚偽記入)で松本氏に執行猶予付き有罪判決を出した際、判決は松本氏について「派閥会長や幹部らの判断に従わざるを得ない立場にあり、権限には限界があった」と指摘していた。

 松本氏が事務的な役割を担い、再開を決定する立場になかったことは明らかだ。

 再開を求めた幹部については、「今は現職ではない」と述べた。

 幹部4人のうち、政界引退した塩谷立氏か、落選中の下村博文氏を指すとみられる。下村氏は取材に「(再開を求める)派内の声を伝えた」と釈明している。

 松本氏が仕えた会長は既に鬼籍に入った。松本氏はノルマ超過分を議員の政治団体に還流した旧安倍派側で唯一の被告となった。

 「慣行がおかしい」という松本氏の進言を無視して還流再開を決めながら、松本氏だけに罪を着せ、幹部が関与を認めないのだとすれば責任は重い。

 幹部には、偽証すれば罪に問われる可能性がある証人喚問の場で、改めて説明してもらいたい。

 松本氏は聴取で、19年の事務局長就任時に前任者から「いつ始まったか知らない」と引き継いだと明らかにした。

 昨年12月の政倫審では、還流は20年以上前から行われていたとの証言もあった。当時の派閥会長だった森喜朗元首相を含め、真相を説明する必要があるはずだ。

 28日の衆院予算委員会で、立憲民主党の野田佳彦代表は、還流再開の経緯が食い違うとして再調査を求めた。一方、自民党総裁の石破茂首相は「自民も調査し、検察当局が結論を出している」とし、再調査を否定している。

 国民が厳しい目で見ていることを首相が自覚しなくては、政治不信が払拭されるはずがない。