核廃絶に向けて国際社会をリードする。それが唯一の戦争被爆国である日本の責務のはずだ。戦火がやまず、世界情勢が不安定化する今だからこそ、より積極的な取り組みが求められる。

 核兵器禁止条約の第3回締約国会議が3日、米ニューヨークの国連本部で開幕する。

 採択を目指す宣言の草案は、ロシアのウクライナ侵攻など「不安定化する世界情勢下」で激化する軍拡競争に懸念を示し、「核なき世界への決意を強化する」と表明している。

 被爆体験を証言し続けてきた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞受賞を歓迎し、核保有国に対して核軍縮への具体的な取り組みを要求する。

 ウクライナやパレスチナ自治区ガザの戦闘により、世界の核リスクは高まっている。核廃絶を目指す宣言の重みを世界の指導者が胸に刻んでもらいたい。

 残念なのは日本が同条約に参加しておらず、会議へのオブザーバー参加も見送ったことだ。

 被団協や被爆地の自治体はオブザーバー参加を政府に求め、連立与党の公明党も要請していた。

 石破茂首相は就任後に「真剣に考える」と述べていただけに、見送りの判断は期待外れだ。第1、2回に続いての不参加となる。一時検討された自民党の議員派遣も見送りとなった。

 昨年は被団協の平和賞受賞があった。今年は広島、長崎への原爆投下から80年の節目の年だ。

 今回の核禁会議は、核なき世界に向けて日本が国際社会を主導する好機になったはずだ。被爆者や被災地から「悔しい」「残念」との声が上がるのも当然だ。

 背景には、条約参加に反対する米国への配慮がある。核大国ロシアや核戦力を増強する中国、北朝鮮の脅威に直面する中、米国の「核の傘」による抑止力を重視せざるを得ないとの判断だ。

 岩屋毅外相は記者会見で「参加すれば誤ったメッセージを与え、平和と安全の確保に支障を来す恐れがある」と述べた。

 とはいえ、過去には日本と同様に核の傘に依存するドイツなどがオブザーバー参加している。

 日本政府が重視するのは、核保有国が参加していない核禁条約ではなく、保有国と非保有国が参加する核拡散防止条約(NPT)だという。NPT体制の下で核軍縮を進めるのが現実的との立場だ。

 しかし、NPTの再検討会議はロシアの反対で決裂が続き、機能不全に陥っている。

 核禁会議では、公明党と立憲民主党が議員を派遣し、立民議員は日本の国会議員として初めてスピーチをする予定だ。

 不戦と平和を国是とする日本の役割は大きい。政府は核保有国と非核保有国との橋渡し役をしっかり務めるべきだ。