自動車産業だけでなく、日本経済全体に甚大な悪影響を及ぼしかねない。自由貿易体制を弱体化させる暴挙でもある。政府は諸外国と協調し、官民挙げて米国に強く撤回を迫るべきだ。
トランプ米大統領は輸入自動車と主要部品に25%の追加関税を課す文書に署名した。自動車は4月3日に、自動車部品は5月3日までに、それぞれ発動する予定だ。
乗用車の税率は現在の2・5%から27・5%に拡大する。トラックは現在の25%が50%となる。
自動車は日本の基幹産業で、対米輸出額の約3割を占める主要輸出品だ。2024年に米国へ輸出した自動車は約6兆円に上る。
トヨタ自動車が53万台、SUBARU(スバル)は29万台、マツダが23万台を輸出している。現地生産を含め、米国はまさに「ドル箱」市場となっている。
25%もの追加関税をコスト削減で賄うのは難しく、値上げに踏み切れば、販売が落ち込んでしまう。追加関税が各自動車大手に大きな打撃を与えるのは必至だ。
さらに懸念されるのは、日本国内のサプライチェーン(供給網)への影響だ。
自動車産業は裾野が広く、輸出が振るわなければ、下請けの中小・零細企業を含めた各地の工場の稼働率が下がることになる。本県など地域の経済や雇用にも影響を与え、消費や設備投資を冷え込ませる恐れがある。
世界経済全体にも、対米輸出の減少を起点とした同様のダメージを与える。各国・地域の経済を破壊し、戦後に築き上げた自由貿易体制を崩壊させかねない。
米国の狙いは、生産拠点を国内に呼び込み、貿易赤字の縮小や衰退した製造業の復活につなげることだ。トランプ氏は「自動車産業はかつてないほど繁栄するだろう」と強調した。
しかし、トランプ氏が期待するような効果が得られるかには、懐疑的な見方が出ている。
鉄鋼やアルミニウムなどにも課した一連の「トランプ関税」を続けるとインフレが再燃し、米国経済が減速するとの指摘がある。
また、追加関税は米自動車大手にも逆風になるとされる。
最大手のゼネラル・モーターズ(GM)は、米国内で販売する車両の30~40%程度をカナダやメキシコで組み立てており、関税の対象になるからだ。
石破茂首相は28日の参院予算委員会で、「米国の得にならないことを理解させるため、最も効果的な方法を考える」と述べた。
日本は輸入する自動車に関税を課しておらず、米国の追加関税は不公平な措置だ。
政府は日本が最大の対米投資国であり、日本企業が米国内で多くの雇用を生んでいることを訴えるなど外交努力を重ね、発動撤回を実現させねばならない。
