オフィスや家庭で、すっかり見かけなくなったものに鉄道の時刻表がある。出張の多い職場なら30年ほど前にはまずあった。パソコンによる検索すら浸透していない時代だ

▼かつて「青春18きっぷ」で各地を回った身としても、大判の時刻表は旅の友だった。列車のダイヤだけでなく、巻末にある宿泊施設の情報が役立った。乗り換えの時に安い宿に電話をかけ、部屋を押さえた

▼いま残る最も歴史のある「JTB時刻表」が今春、刊行100年の節目を迎えた。部数のピークは国鉄最後のダイヤ改正となった1986年11月号で、約200万部が売れた。時刻表もこれで最後になる-という誤解も後押しした。現在は月平均3万4千部にとどまるが、根強い需要がある

▼源流は25(大正14)年4月刊行の「汽車時間表」だ。創刊号の復刻版を眺めると、新潟から東京の上野に向かうには磐越西線の福島経由か、信越本線で長野を回るしかない。早くても半日はかかった。上越線はまだ塩沢(南魚沼市)どまりだった

▼創刊号は、時刻表の引き方を詳しく解説しているのも特徴だ。早く使い方を覚えてほしいとの思いがあった。時刻表を使い慣れない人が多くなった現代にも必要な項目かもしれない

▼年に1冊ほど、時刻表を求める。スマホのアプリは便利だけれど、時刻表をめくって、旅程を考えると旅先への想像が湧く。風薫る季節を迎えた。時間対効果を意味する「タイパ」が重視される時代に、ゆったり準備するひとときも悪くない。

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